2017年02月03日 1463号

【2017年度予算案/5兆円軍事費を「聖域」扱い/社会保障費削減で生活破壊】

 1月20日開会した通常国会で2017年度政府予算案が審議される。予算案の最大の特徴は、社会保障費を削減する一方で、軍事費と公共事業費を増額するところにある。

 社会保障費は、1兆円程度の自然増を概算要求で6400億円にまで絞り込み、さらに1400億円削減して4997億円増とした。一方、軍事費は5年連続の増額、2年連続で5兆円を超えた。公共事業費も5年連続で増額されている。安倍政権は「歳出改革のために聖域なき徹底した見直しを推進」と予算編成の基本方針を掲げたものの、軍事費などを実質上の聖域にしている。

 この予算案では、市民の生活破壊がさらに深刻となり、ひたすら軍事大国化が進められる。過去に小泉政権が社会保障費の自然増を5年間で1・1兆円「抑制」したため、医療崩壊や介護難民が出現したことを忘れてはならない。それ以上の事態が生じることは間違いない。

医療・介護が壊される

 社会保障費削減の内訳をみると、医療・介護制度への攻撃が著しい。

 きわだったものだけを見ても、(1)70歳以上の医療費自己負担上限(月額)の引き上げ(2)75歳以上の医療保険料軽減の縮小(3)大企業の会社員や公務員の介護保険料引き上げなどである。

 (1)についてみると、住民税課税から年収370万円までの人は外来の自己負担上限が8月以降2000円引き上げられて1万4000円となり、来年8月には再び4000円引き上げで1万8000円となる。入院を含めると、8月から4万4400円から5万7600円に引き上げられる。該当する人は1243万人だ。370万円以上の収入であればさらに大幅な引き上げとなる。770万円までの収入の人は、外来で4万4400円が8月に5万7600円、来年8月には8万7430円となり、約2倍の負担増を強いられる。

 (2)では、年金が年153万円から211万円の人の所得割軽減5割が2割に引き下げられるため負担が増える。211万円の人は月4090円が17年度に5400円、18年度に6290円となる。

 (3)では、収入に応じて介護保険料を決める総報酬制を段階的に導入するため、まず比較的収入が高い大企業の労働者、公務員などが負担増となる。対象は約1490万人。

 その他、介護サービス利用料の月額自己負担上限が一般区分で7200円の引き上げ、入院時の光熱水費の自己負担導入など、高齢者を中心にすべての市民に負担増を押し付けるものとなっている。その一方で、年金はマイナス改定とされている。収入を減らして負担を増やせばどうなるかは明らかだ。格差と貧困がますます拡大していく。

削減は財界の要求

 予算案に表れているように安倍政権の考え方は増大する社会保障費が経済成長を阻害しているため、これを抑制すれば経済成長できる。さらに軍事大国化を歩める≠ニいうものだ。

 経済財政の根幹を定めた「骨太の方針2015」では、増大する社会保障給付を効率化・重点化すること、次世代への負担の先送りを拡大させないこと、自然増を年5000億円に抑制することなどを明記。社会保障費を削減しなければ経済再生と財政健全化ができないと言うのだ。

 安倍政権を支えるグローバル資本はもっと赤裸々に語る。経団連榊原会長は、予算案について「社会保障関係費の伸びを抑制」したことを積極的に評価し、今後の課題として「(医療・介護給付見直しで)さらに踏み込んだ効率化・適正化」を求めるコメントを出した。グローバル資本は、社会保障費の徹底した削減を要求している。

 なぜそう捉えるのか。

 「医療・介護制度改革に関する経団連の考え方」(16年10月18日)は、「3年連続となる賃金引き上げの効果も社会保険料負担の増加で大きく減殺」され「企業の活力を削ぐことでわが国の経済成長を下押ししている」との認識を示す。そして、「(医療・介護制度の)適正化・効率化が十分進んでいない」から「企業努力の及ばないところで負担が増えている」と不満を表明する。だから、社会保障費削減を要求するのである。グローバル資本は社会保障を利益拡大を妨げるお荷物≠ニしてしか捉えていない。

軍事費こそ削れ

 財政が危機的状態との触れ込みで、予算案では社会保障費削減に大きく踏み込んだ。だが、同日閣議決定された2016年度第3次補正予算案では「ミサイル防衛網の拡大」など軍事費が1706億円も計上された。ここでも軍事費優先なのだ。

 安倍政権の17年度予算案は、どこまでも市民生活を無視した、グローバル資本のためのものでしかない。軍事費と無駄な公共事業費を削れば、社会保障費の自然増分だけでもただちにまかなえる。

 社会保障は、生活を支えて社会の安定に寄与する。同時に雇用を生み出して健全な経済成長にもつながる。社会保障の拡充こそが必要なのだ。
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