2017年02月17日 1465号

【でたらめな安倍「労働時間短縮」 過労死水準の合法化狙う 残業NO、労基法強化を】

 電通過労死事件の再発を契機に長時間・過重労働に対する批判が強まっている。そうした中で、安倍政権の「残業時間上限規制」の内容が明らかになりつつある。それは、残業時間の上限を「年間720時間、月平均60時間を超えないことを前提に、月最大100時間、2か月の平均で月80時間とする方針」と報じられるとんでもないものだ。

「まだ人間を殺す気か」

 早速ツイッター上に怒りのコメントが殺到した。「100時間は過労死基準。めちゃくちゃだ。政府がお墨付きを与えてしまう。断固反対です」「繁忙期でも認めるな!!人間に月100時間の残業を認めるな!!まだ人間を殺す気か!!って思いますよ」等々。

 厚生労働省が2001年に出した通達「脳・心臓疾患の認定基準」は「過労死認定基準」といわれる。内容は、(1)発症前1か月当たりおおむね45時間を越える時間外労働が認められない場合は業務と発症との関連性が弱いが、おおむね45時間を越えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できる(2)発症前1か月間におおむね100時間または発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月おおむね80時間を越える時間外労働が認められる場合は業務と発症との関連性が強いと評価できる、である。

 報道されている「上限規制」案はまさに過労死水準であり、グローバル資本の欲望をそのまま認めるものだ。

36協定で無制限残業

 労働基準法は、労働時間の上限を1日8時間、週40時間と定めた。それを超えるのは本来違法なのだ。ただし、同法36条に基づき労使間で協定(36<サブロク>協定)を結べば法律の上限を超えた残業が可能となっている(あってはならないからこそ、残業には割増賃金が義務付けられる)。

 残業時間は厚生労働省の「時間外労働の限度に関する基準」による指針として「月45時間、年間360時間以内にしなければならない」とされるが、特別条項付きの36協定なら、年6か月まで無制限で残業させることができる。

 実際には日本に法的残業時間規制はないのが実情だ。

 東京新聞が2012年、東証一部上場企業のうち売り上げ上位100社の36協定を調査した結果では、100社中72社が月80時間を超える協定を結んでいた。

 日本の労働時間は15年で1734時間と短くなったようにいわれる。しかし、これは短時間勤務のパートタイム労働者が急増したからだ。パートを除いた一般労働者の労働時間をみると、15年には2025時間となり前年よりも増加。自動車や電機、鉄鋼、造船などグローバル企業のほとんどの職場で年間労働時間は2000時間を超える。

 また、労働者が実際に働いた時間を世帯調査する総務省労働力調査では、15年の労働時間は2191時間となっている。厚労省による企業調査を基にした労働時間2025時間との差、166時間は働いたのに賃金が払われなかった「サービス残業」である。

ILO労働時間条約批准を

 日本とは対照的に、EU労働指令は「週労働時間の上限を時間外労働を含め平均して週48時間とする」「24時間につき最低連続11時間の休憩時間(=1日につき労働時間の上限は13時間)」とする。

 EU指令と同水準の規制を行うには、1998年労働省告示の36協定の延長限度時間に関する基準を法的上限とすることだ。同告示は、1週間15時間に始まり、1か月45時間、3か月120時間、年間360時間を協定の上限として明示している。この基準を有名無実にしてきた特別条項を廃止しなければならない。

 違反した場合の罰則は、強制労働の禁止に準じて1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金とすることがふさわしい。残業手当の法定割増率を米国・英国・韓国など国際水準にあわせて50%に引き上げることも緊急に必要だ。

 安倍首相は、4野党共同提出の「長時間労働規制法案」が求める「勤務間インターバル規制」にも背を向けている。国会答弁で、インターバル規制について現時点で導入している企業が少ないことを理由に、あくまで「自主的な取り組みを推進」と、法制化しない姿勢を鮮明にした。24時間労働の合法化を許さず、退社から出勤まで11時間以上空けることを義務付けるインターバル規制を法制化しなければならない。

 日本政府は戦後、労働基準法制定で1日8時間労働制を実現したように見せながら、36協定によって事実上は無制限・青天井で労働させることを可能にしてきた。そのために、日本は、ILO(国際労働機関)の労働時間に関する18の条約について、「労働時間は1日8時間、1週48時間を超えてはならない」とする第1号条約をはじめ1つも批准していない。

 過労死、ブラック労働を許さず人間らしい労働を実現するために、労基法を抜本的に強化し、ILO労働時間条約の批准を求めよう。

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