2017年02月17日 1465号

【未来への責任(218)/予期せぬ韓国国防部での成果】

 韓国での朝鮮戦争犠牲者の遺骨を家族の元へ返すための取り組みは参考になると常々思っていた。会議の翌日、チャン・ワニク弁護士の立会いで韓国国立墓地内にある韓国国防部中央鑑識所を突然訪問できた。

 国防部遺骸発掘鑑識団は2009年に中央鑑識所を設置し、朝鮮戦争戦没者の発掘・鑑定事業を行っているとのこと。チャン・ユラン所長(民間人で法医人類学博士)から直接話をうかがうことができた。

Q:日本で問題になっているのは、厚労省が頭蓋骨がないと1人の個体性と認めないこと。手、足だけなら焼いてしまい、遺族に返さないという考えですが、韓国はどうでしょう?

A:韓国だけでなく世界的にDNA検査の中心は大腿骨。大腿骨の次は脛骨。歯は順番では後の方です。これは韓国だけではなく全世界的。韓国では頭蓋骨が出なくても四肢骨を検査し、1人として個体性を認めます。右足1本だけでも、1人として認めます。あんまり小さすぎてDNAが取れない場合は仕方ないですが。

Q:歯のない遺骨、頭蓋骨のない遺骨は厚労省の指示で現地で焼いています。火葬についてはどうなっていますか?

A:身元が確認されるまでは火葬はしません。身元確認できない遺骨はそのまま保管します。

Q:大腿骨からDNA抽出できる確率は?

A:埋葬環境で違いはありますが、朝鮮戦争の場合ほとんど出ます。90%以上は出ます。

Q:DNA検査は15ローカス(部位)で検査するのですか?

A:15は国際基準ですが、技術が発達しているので23ローカスです。

Q:遺骨とのDNA照合の時に死んだ地域で対象を絞りますか?

A:朝鮮戦争は突然起こったので、どこで死んだのか記録が無い人が多いし、避難民もいたので、地域で区分はできません。すべて一緒に照合します。

 これまで厚労省が行ってきた方針が、いかに根拠の薄っぺらいものか、この短時間の交流で見事に暴かれた。

 訪韓から帰国した週の12月24日、共同通信は「日米で戦没者遺骨収集/来年度から科学調査で協力」と報じた。「10月には、旧ソ連抑留犠牲者の遺骨収集作業中に、DNA鑑定の検体として採取した61柱分の歯を誤って焼却したとされる問題も起きた。政権内からは『本腰を入れて対応しないとまずい』(与党筋)との声が漏れる。米側の取り組みは進んでいる。国防総省は専門機関の『戦争捕虜・戦中行方不明者捜索統合司令部』を置き、米兵の遺骨を発掘して持ち帰り、鑑定し、遺族の元へ引き渡す任務を担う。歯を伴わない遺骨のDNA鑑定も行っている」と。

 明らかに私たちの問題提起が「骨は焼いてすべて千鳥ヶ淵へ(魂は靖国へ)」という戦後一貫して行ってきた「安上がりな戦後処理」の根幹に変化を与えつつある。今後も韓国人遺族への遺骨返還に門戸を開かせるために引き続き尽力したい。

(「戦没者遺骨を家族の元へ」連絡会 古川雅基)

連絡会のHP http://kazokunomotoe.webnode.jp/

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