2017年03月03日 1467号

【民意無視する避難指示解除 被ばくを強いる安倍政権 避難者を消し去る棄民にノー】

 3月で福島原発事故から6年。安倍政権は「空間線量の低下」を理由に次々と避難指示解除を強行している。

 これまでに避難指示が解除されたのは、田村市(14年4月)、川内村(14年4月と16年6月)、楢葉町(15年9月)、葛尾(かつらお)村(16年6月)、南相馬市(16年7月)の5市町村。さらに今年の3月末には飯舘(いいたて)村、川俣町についても解除を予定している。

20_シーベルトは高すぎる

 避難指示解除の要件は、(1)空間線量率で推定された年間積算線量が20_シーベルト以下になることが確実であること(2)電気・ガス・水道などのインフラや医療・介護・郵便などの生活関連サービスが概ね復旧し、子どもの生活環境を中心に除染作業が十分進捗すること(3)県・市町村・住民との十分な協議、とされている。

 だが、そもそも年間20_シーベルトは、公衆の被ばく線量限度である1_シーベルトの20倍、放射線管理区域(その中では18歳未満は働いてはならず、飲食や就寝してはならない場所とされている)基準の約4倍にあたる。また、原発作業員の通常時の被ばく限度は最大で年50_シーベルトだが、5年間で100_シーベルトを超えてはならないとされており、平均すると年20_シーベルトだ。日本政府は、妊婦や子どもにも原発作業員と同じレベルまでの被ばくを受け入れよと強要していることになる。

 政府は「100_シーベルト以下では健康に影響はない」として「安全」を強調する。だが、政府が保証する「安全」を住民は信用してはいない。

帰還率わずか13%

 過去に避難指示解除となった5市町村で帰還対象住民は1万9460人、うち帰還したのは2566人で、帰還率はわずか13%にすぎない。

 避難指示が解除されても帰還しない人は、避難指示がないのに避難している自主=i区域外)避難者と同じ立場に置かれる。帰れるのに勝手に避難を続けている、というわけだ。

 その中には新たに住宅を取得して移住を決めた世帯もある。避難先で住宅や土地を取得する件数は2012年半ばから増え続けており、昨年末時点で約9500件に達した。うち約8300件が福島県内で、いわき市が最も多い。最近は住宅確保が難しくなり、福島市や郡山市に広がっているという(2/4東京新聞)。

放射線の影響懸念

 帰還しない理由はそれぞれに事情があるだろうが、根底にあるのは放射線による健康障害への不安だ。

 福島県が実施した県政世論調査(1/31発表)によると、「どんな情報を知りたいか」の問いに、最も多かったのが「食品や農産物の安全性確保の取り組み・放射性物質検査情報」の64・3%、次が「放射線の健康への影響」で59・5%だった。また、「長期の健康不安を感じているか」の問いに対しては、「はい」「どちらかと言えば『はい』」と答えた人が43・6%と、「いいえ」「どちらかと言えば『いいえ』」と答えた人の32%を上回った。

 また、県消費者団体連絡協議会が実施した県民意識調査では、73・1%の人が県産米の全量全袋検査の継続を希望。「これまで通りの検査はあと何年必要か」との問いに「5〜10年」が42・6%、「10年以上」が30・2%を占めた。

 いくら政府や県が「安全・安心」を振りまいても、多くの県民は不安を抱え、少しでも被ばくを避けたいと考えながら生活しているのだ。

五輪と原発輸出のため

 安倍政権は居住困難区域(放射線量が年間20_シーベルトを超えると予想される区域)だけでなく、帰還困難区域(年間50_シーベルトを超え、5年たっても20_シーベルトを下回らないと予想される区域)についても5年後をめどに避難指示を解除する「特定復興拠点」を設けようとしている。

 だが、2号機の原子炉格納容器下部の放射線量が650シーベルト(2/9推定)に達することが報じられた。これは数十秒の被ばくで死に至るレベルだ。また1〜3号機のプールには使用済み核燃料棒が残されたままだ。そんな場所の近くに人を帰すなど狂気の沙汰だ。だから復興庁の住民意向調査でも、原発周辺4町(双葉町、大熊町、浪江町、富岡町)で帰還を考えている世帯は1割ほどにとどまる。

 安倍政権が住民の意識や実情を無視して避難指示解除を急ぐのは、2020年東京五輪までに原発事故の影響は解消したことにしたい、そして原発再稼働や海外輸出を進めていくためにほかならない。

 だが、原発ありきの方針は原発メーカー東芝の経営危機や東日本での各種疾病の増加など日本社会を蝕みつつある。命、人権よりもグローバル企業を優先する帰還・被ばく強要政策を批判し、人権尊重の社会に変えなければならない。 
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