2017年03月03日 1467号

【日米首脳会談報道が変だ/異常な「大成功」キャンペーンで世論誘導/トランプもうらやむ御用メディア】

 安倍晋三首相とトランプ米大統領の首脳会談について、日本のメディアは「大成功」「満額回答」と報じている。“トランプは厳しい対日要求を突きつけなかった。それどころか、日米同盟の強化を約束してくれた。安倍外交の大勝利だ”というのである。怪しげな「戦果」を大宣伝−−これはもう戦時中の「大本営発表」ではないか。

作られた「評価7割」

 共同通信社の世論調査(2/12〜13実施)によると、日米首脳会談を「よかった」と評価する回答は70・2%にのぼり、「よくなかった」19・5%を圧倒した。安倍内閣の支持率は61・7%。前回調査より2・1ポイント増えた(不支持は27・2%)。ためいきの出るような数字である。

 今回の会談で安倍はトランプの機嫌取りに終始した。「素晴らしいビジネスマン」と持ちあげ、大統領選挙での勝利を「まさに民主主義のダイナミズムだ」とほめたたえた。選挙戦でトランプがまき散らした差別発言やウソ八百の問題は完全スルー。世界中から批判されている入国禁止大統領令に関しても「内政問題だ」として容認した。

 米タイム誌は「日本の首相はトランプの心をつかむ方法を教えてくれた。こびへつらうことだ」と冷ややかに報じた。当然であろう。こうした批判的視点が日本の報道には欠けている。

 大手新聞は「手応え予想以上/安保、日本に『満額』」(2/12毎日)、「初の首脳会談としては上々の滑り出し」(2/12読売社説)と大絶賛。テレビは各局の安倍御用記者(NHK岩田明子、日本テレビ青山和弘など)が、トランプとの「信頼関係」構築に成功したとして、「安倍外交」を持ち上げた。

 このような報道に接していれば、「日米首脳会談はうまくいった」とのイメージが刷り込まれてしまう。「7割評価」の世論はメディアが作り出したのである。

「安倍スゴイ」を連発

 世論誘導に乗せられないためには翼賛報道の異常さに気づく必要がある。そこでサンプルを2つ用意した。まずは、安倍に最も近い記者の一人と言われる阿比留瑠比(あびるるい)(産経新聞論説委員兼政治部編集委員)のコラムである。

 いわく「トランプ米大統領は安倍晋三首相を通じて国際社会を学び、各国首脳は首相を通してトランプ氏を知る−。大げさに言うのではなく、こんな構図が生まれつつあるのではないか」「それはやはり、首相が世界のリーダーの1人としての存在感を高めてきたことが大きい」(2/12産経)。

 いやいや、どう考えても大げさでしょう。安倍が好む表現を使えば、「首相は世界の真ん中で輝くリーダーだ」と言いたいようだが、まるで聖教新聞を読んでいるかのような気分にさせられる。

 続いては同じ産経新聞の田北真樹子。2月10日の共同会見で安倍から指名された記者の一人である(もう一人はNHKの記者)。田北のコラム(2/11産経)によると、昨年11月の初顔合わせの場で安倍はトランプにこう語りかけたのだという。

 〈「あなたはニューヨーク・タイムズ(NYT)に徹底的にたたかれた。私もNYTと提携している朝日新聞に徹底的にたたかれた。だが、私は勝った…」

 これを聞いたトランプは右手の親指を突き立ててこう言った。「俺も勝った!」〉

 たしかに、2人には反リベラル、言論弾圧体質という共通点がある。だが、田北は批判目的でこのエピソードを紹介しているのではない。字面どおり、トランプの心を掴んだ安倍の手腕を讃えているのである。「おべんちゃら」ならぬ「あべんちゃら」も、ここまでくると気持ち悪い。

肝心な事実は隠す

 翼賛報道の最大の問題点は肝心な事実を伝えないことにある。2月14日、ロイター発の外電が小さく報道された。ホワイトハウスでの首脳会談後に公表した共同声明の作成段階で、米側が「日米自由貿易協定(FTA)の締結を目指す」との文言を要求していたというのだ。

 「FTAについて具体的な要請はなかった」という日本政府の説明を覆す報道である。記事によれば、日本側が難色を示し「2国間の枠組みに関して議論を行う」と表現を修正したそうだが、これはごまかしにすぎない。今話題の「戦闘」を「衝突」への言い換えと同じことである。

 FTAの危険性は、すでに米国とFTAを結んでいる韓国の事例をみれば明らかだ。グローバル資本の利益を最優先する協定を結ばされた結果、韓国の農業・畜産業界は大打撃を受けた。医療分野でも米国など外資系製薬会社の意向に左右され、医療費が高騰する状況が生じている。

 これほど市民生活に影響を及ぼすFTAの問題を日本のメディアは深堀りしない。安倍が国会で「FTAを恐れているわけではない。国益になるならいい」(2/14衆院予算委)と発言しても、ベタ記事の扱いなのだ。

 首脳会談の期間を通し、見事に飼いならされた日本の取材陣を見てトランプはこう思ったはずだ。「安倍よ。お前は楽でいいな」と。 (M)



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