2017年03月03日 1467号

【どくしょ室/五〇年目の日韓つながり直し 日韓請求権協定から考える/吉澤文寿編著 社会評論社 本体2400円+税/植民地主義の清算、未だ終わらず】

 本書は、「日韓会談文書・全面公開を求める会」(2016年12月に解散)と「日韓つながり直しキャンペーン2015」の共同事業として刊行されたものである。

 2015年、日韓両国は国交正常化50年を迎えた。この50年で日韓間では多くの人が行き来するようになり、政治・経済・文化等の面で深い関係を築いた。しかし、日本軍「慰安婦」問題、強制連行・強制労働問題などはいまだに解決をみていない。韓国では今も、「慰安婦」被害者が声を上げ、元徴用工らが続ける強制連行訴訟も15件にのぼる。

 これらの問題に関し、日本政府は一貫して「1965年の日韓請求権協定で完全かつ最終的に解決済み」と主張している。本当にそうか。そうであれば、なぜ被害者らは今も責任を問い続けるのか。

 本書は、それに対する回答を提示する。本書の編著者である吉澤文寿は、「序論」で、足かけ14年にもわたった「日韓会談の経緯」を概括。中断・再開を繰り返した会談の経緯、日韓の対立点、それが合意に向かう背景にあった両国政府、米国の思惑などを整理している。その中で「日本の世論もまた戦争および植民地支配による責任の問題や在日朝鮮人の法的地位や処遇について意識していたとは言い難かった」と指摘している。

 また、太田修は、「『日韓請求権協定で解決済み』論を批判する」との報告を書いている。その中で太田は、日韓間の「過去清算」という課題を「『財産』『請求権』という枠組み」に封じ込めたことは「『植民地支配正当化』論の上に成り立っていた」と言う。両政府は、その「請求権」も最後には「経済協力」にすり替え、「植民地支配・戦争の責任を問う被害者らの声を有無を言わせず排除してしまった」。これを太田は「条約―法による『暴力』」と批判する。そして「財産請求権協定という法―条約が植民地支配・戦争による暴力への責任を不問にしたことによって、植民地支配・戦争による暴力そのものが維持された」と強調した。

 吉澤、太田の日韓会談、請求権協定への批判は日本政府に向けられている。ただ、それは、元日本軍「慰安婦」被害者を「公娼だった」と罵り、在日の人たちへのヘイト・クライムが横行するこの国の今を見るとき、私たちが重く受けとめるべき指摘でもある。

 本書には、日韓、朝鮮史研究者だけでなく、国際法研究者、ジャーナリスト、市民の報告も所収している。どの報告も、1965年の日韓基本条約、請求権協定等が封印・欠落させた植民地主義清算の課題を浮かび上がらせる。日韓間に残っているのは単に「歴史認識」の違いではない。実体的課題に真摯に応えることが問われている。そのことを本書は提起している。

  (Y)
ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS