2017年03月10日 1468号

【ドクター林のなんでも診察室/周産期死亡増に山下俊一が「反論」?】

 赤ちゃんが妊娠22週から生後7日未満までに亡くなることを周産期死亡と言います。福島原発事故の後、福島はもとより岩手から東京まで被ばくがあった地域で周産期死亡率が増加しているとの論文を、ドイツのハーゲン・シェアプ氏が医療問題研究会の私と森氏の共著論文にしてくれたことは、すでに本紙1450号に載りました。

 この論文に対し、ついに日本の原発推進派医学界のボス、山下俊一氏らが批判してきました。論文がネットで話題になり、新聞に掲載され、『週刊MDS』読者をはじめ運動の中で使われ、その影響が無視できなくなったことを示すものです。

 外国からの批判と同様、シェアプ氏が私の意見も取り入れて反論してくれました。

 山下氏らの批判点の一つは、福島では先天異常が増加していないから周産期死亡も増えるはずがないというものです。その根拠に福島県県民健康調査での「妊産婦における調査」の英語論文をあげています。私の習性で、「本当?」と思う場合は必ず元の論文を読みます。

 ありました、ごまかしが。福島県調査では赤ちゃんの先天異常が全国平均と比べて多くないかのように書いているのです。計算してみますと、全国より福島県の方が18%も多い。統計的にも明らかなのです。シェアプ氏にこれを連絡すると、氏は再計算した上で(批判者の意図とは逆に)「このデータは周産期死亡の増加を支持するものじゃないか」と反論しています。

 彼らの他の批判点は、がん以外の胎児への障害は50_シーベルト以下では起こらない、とのICRP(国際放射線防護委員会)が作り上げた「理論」からの批判です。シェアプ氏は、より低い被ばくで発がんの事実があるのに、受精卵などへの障害を認めないおかしさを指摘しています。

 また、障害が増加しているという事実より、「伝統的」意見を重視する山下氏らの批判は無知と独断の姿勢だ、と書いています。私も言いたかったことです。山下氏らにとってはこの批判はやぶ蛇となったようです。

 この問題と関連した注目すべきニュースがあります。私たちの周産期死亡増加の論文に加え、これまで発表していたシェアプ氏達の胎児に与える障害の研究を2015年までの最新データでリニューアルした論文が、ICRPと理論的に闘っているドイツの雑誌に掲載されました論文の著者の中にも私と森氏が入っています。ドイツ在住の桂木忍氏が大変正確かつ分かりよい日本語に訳してくれました。

 医療問題研究会のホームページに掲載していますので、妊娠出産の障害への関心を高める資料として使っていただければ幸いです。原発事故のおこす障害は甲状腺がんだけでなく、より広範なものなのです。

    (筆者は小児科医)
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