2017年03月31日 1471号

【ミリタリーウォッチング 朝鮮の弾道ミサイル発射 全関係国は軍事挑発やめよ】

 3月6日、朝鮮民主主義人民共和国(以下、朝鮮)が弾道ミサイル4発を発射した。うち3発が日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下したとされる。日本のEEZ内に朝鮮が発射したミサイルの弾頭部分が落下したのは昨年9月以来3回目だ。昨年の3発から1発増えたこと、ほぼ同時発射であったことで、「新たな脅威」が大々的に宣伝されている。

 もちろん、朝鮮の弾道ミサイル発射などの軍事的冒険が東アジアの平和にとって「百害あって一利なし」の暴挙であることは間違いない。だが、問題は、日米韓を中心にした軍事を含む「制裁」一本槍の対応が事態の悪化にいっそう拍車をかけていることだ。

 そもそも朝鮮の「瀬戸際政策」の狙いが米国などの軍事攻撃による政権崩壊の脅威への対抗にあることは世界の常識的な見方だ。軍事大国イラクが米軍の攻撃で一気に崩壊した現実は朝鮮の政権にとっては、大きな衝撃だった。米軍が朝鮮政権を崩壊させるのにはわずかな日時で可能と言われる。朝鮮の軍事力は、米軍にとっても、自衛隊にとってもほとんど問題にならない。朝鮮の核戦力もその意味では同様である。

 冷戦後(ソ連崩壊後)の米国と日本の戦略においては、ソ連に代わる「大きな脅威」が必要だったのであり、朝鮮の核開発を始めとした「瀬戸際政策」が徹底的に利用されてきたことは明らかである。今日でもこの構図は全く変わらない。

 米軍にとっては、「高高度防衛ミサイル(THAAD<サード>)」(Xバンドレーダーとのセットで中国やロシアの軍事情報を丸裸にできる)の在韓米軍への配備を早め、韓国の大統領選挙前にも既成事実化することが当面の目的だ。自衛隊にとっては、「敵基地攻撃能力」論に端的な「脱専守防衛」を意味する海外展開能力のステップアップである。精密誘導爆弾を搭載した戦闘機や、弾道ミサイル、巡航ミサイルなどがその兵器にあたる。

 自衛隊は、すでに2017年度には最新鋭ステルス戦闘機F35Aの三沢基地への配備を決定している。これに精密誘導爆弾を搭載すれば容易に「敵基地攻撃能力」の一つが備わる。まさに、朝鮮のミサイル発射を口実にした大軍拡である。

 米原子力空母カール・ビンソンや最新鋭ステルス戦闘機F35B(垂直離着陸型)などを投入した今回の米韓合同演習は朝鮮政権への軍事威嚇であり、朝鮮のミサイル発射をも想定した計画的挑発行為と言っても過言ではない。

 「核ミサイル保有で安全にはならず、武力発動で出口が見つかるわけでもない」「朝鮮と合同軍事演習で圧力をかける米韓の双方に『活動の一時停止』を」との王毅中国外相のコメントは、世界の常識的な視点に立つ指摘だ。

 軍拡ではなく軍縮こそが朝鮮半島危機を回避する唯一の道であることは今も変わりはない。ヨーロッパ諸国は冷戦終結後、25年の長い年月をかけ、交渉を積み重ねて、兵員、装備(兵器)とも半減以上の軍縮を達成した。

 また、昨年10月、国連においては、核兵器保有国などの強い圧力にもかかわらず、核兵器禁止条約の交渉をこの3月に開始する決議が賛成多数(3分の2に近い123か国が賛成、日本は反対)で採択された。今後、保有国抜きでも条約づくりを先行させ、地雷やクラスター爆弾の禁止条約と同様、その後に保有国の政策を変えさせていく強力な流れが作り出された。

 世界の潮流は軍縮にある。この流れを東アジアに反映する取り組みが求められる。

豆多 敏紀
平和と生活をむすぶ会



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