2017年03月31日 1471号

【深刻化する保育所不足 子育て世代の貧困化で拍車】

待機児童ゼロ公約を放棄

 「保育園落ちた」ブログをきっかけに社会問題化した待機児童問題。安倍首相は昨年3月、「待機児童ゼロを必ず実現する決意だ」と国会で答弁した。だが、ゼロどころかさらに待機児童が増え、今年も問題が再浮上している。

 認可保育施設の定員は増えたものの、都市部での保育需要がそれを大幅に上回り、問題は深刻化するばかりだ。東京都目黒区では希望者の50%、大阪市では25%が入所できない。その結果、2017年度末までに待機児童ゼロを掲げた安倍首相は「達成できる状況ではない」と答弁せざるをえなかった。

 現実を前に安倍は「最大限の支援をしたい」と弁明したが、必要な財源確保については言及しない。あくまで規制緩和による保育の受け皿拡大を狙うにすぎず、問題解決を図ろうとはしていない。

 15年度から始まった子ども子育て支援新制度では、待機児童対策として3歳までの小規模保育施設の創設が打ち出された。認可施設ではあっても、保育士資格者が3分の1でもビルの一室でも開設可能とされる。この小規模保育施設を5歳まで受け入れ可能とする国家戦略特区法案が今国会に提出されようとしている。つまり、保育の質を問わない安上がりの対策でごまかそうとしているのだ。

なぜ待機児童が増えるのか

 少子化の進行にもかかわらず、なぜ待機児童が増えるのか。背景にグローバル資本による雇用不安定化がある。従来「稼ぎ主」とされていた男性も不安定雇用や賃金抑制を強いられ、若い世代の夫婦ほど1人の収入では家計維持ができなくなった。共働き世帯が増え、専業主婦の世帯は減り続ける。97年以降、共働き世帯が専業主婦世帯を上回り、その差は拡大している。それはそのまま保育ニーズの増加につながっていく。(図1)



 待機児童数は、隠れ待機児童(認可保育所に入れなかったが待機児童と認定されなかった数)を含めると約9万人に上る。「保活」という言葉さえ生まれた。認可外施設での場合、利用料が月20万円を超えるところもあり、生活悪化は必至だ。認可外施設を利用できても解決につながらない現実がある。

 どれほど生活が苦しくなっているか。総務省・全国消費実態調査での中央値(図2・年間可処分所得順に並べて真ん中の値)は、09年に270・4万円だったのが14年には263・3万円に下がっている。これは、中間層の可処分所得が落ち込んだことを示す。そこに消費税増税が追い打ちをかけた。そのため、家計支出は3年連続で減少している。



 生活悪化の進行は深刻だ。消費支出のうち食費が占める割合を示すエンゲル係数が4年連続で上がった。光熱水費、交通通信費、教養娯楽費などを削って食費に回している姿が浮かび上がる。

 原因は、正規雇用から非正規雇用への置き換えで賃金が切り下げられてきたことにある。子育て世代の賃金動向を02年と12年で比較すると、20代では年収200万円台が増えて300万円以上が減り、30代では年収300万円台が増えて400万円以上が減っている。97年と比べると年収で50万円以上も減少しているのだ。加えて負担増を強いられ、生活を直撃している。

保育士賃上げが不可欠

 待機児童問題を深刻化させているのには、保育士不足もある。解決のために保育士確保が必要だが、その賃金は全産業平均より月11万円ほど低く、保育士がなかなか集まらない。保育士の賃金を大幅に上げなければならない。

 昨年3月、野党が共同で保育士賃金月5万円引き上げの法案を提出した際、必要な予算2800億円の財源を公共事業の削減や法人税課税の見直しに求めていた。この金額は軍事費5・1兆円を6%削減するだけで生み出せる。すぐに実現可能なものだ。また、待機児童問題解決のために必要とされる1・4兆円は不公平税制の解消で十分可能だ。

 安倍政権は、社会保障費を削減し、消費税増税分は法人税減税に回してきた。だが、法人税減税の経済効果は0・6倍、これに対し子育て支援の経済効果は2・3倍とする試算がある(柴田悠『子育て支援と経済成長』)。安倍政権は、日本経済全体にとって効果のない政策を進め、今もそれに執着しているのだ。

 待機児童解決のためには、規制緩和ではなく、公立保育所、少なくとも認可施設の大幅増設と保育士賃金引上げが不可欠である。
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