2017年06月16日 1481号

【国家テロを拡大する共謀罪/「テロ防止なら監視も我慢」 マジですか/環境、人権は犯罪の隠れみの?】

 共謀罪法案が参院で審議入りした途端に、政府・与党は6月13日にも「採決」とのスケジュールを公然と口にしている。審議するほど政府のウソが明らかになり、反対の声が広がってきた。「テロ対策に役立つなら、監視もやむなし」と考えるのは大間違い。共謀罪法案は、テロ対策には全く役に立たないどころか、国家による対市民テロを拡大する危険なものだ。

サリン事件は防げない

 共謀罪法案は、あくまで「テロ対策」だと言い張る安倍政権。現行法で対応できないテロの一つとして「テロ組織が大量殺人を計画し、殺傷能力が高い化学薬品を製造するために、原料の一部を購入した場合」をあげている。共謀罪法はこうした事件を未然に防ぐためにいるのだと言う。本当にそうか。

 政府は「個別事案を念頭に置いたものではない」と明言しないが、この事例は、オウム真理教による地下鉄サリン事件(1995年3月)だと誰しも思う。宗教団体としてのオウム真理教は、「悪業を積む者」の命を奪うことで魂を救済すると称し、「ポア」=殺人を正当化する異常な「教義」を唱えていた。坂本弁護士一家殺害事件や松本サリン殺人事件を重ね、地下鉄サリン事件では13人が死亡、6500人の被害者を出した。

 この事件後すぐ「サリン等による人身被害の防止に関する法律」が制定され、サリンなど毒ガス製造の未遂や製造のための原材料・設備などの提供者も処罰できるようにした。共謀罪の要件である組織犯罪集団でなくても、準備行為に対しても対応できるようになっている。

 政府があえて、この事例を挙げているのは、多くの人びとの記憶に残る恐怖心を利用しようとしているにすぎない。具体的な事件の推移に照らせば、共謀罪法があったとしても事件防止には役に立たないことが逆に明らかになる。

 地下鉄サリン事件では「警察当局は事件の数日前に何らかのかく乱工作があることをつかんでいた」と当時の警察庁長官がインタビューに答えている。信者1万1千人のうち、8千人以上の個人情報を収集していた。「計画」「準備行為」から、さらに進んで実行寸前の状況に至った段階の情報を手にしていても、対応しなかった。共謀・準備行為段階で処罰する法律がなかったからではない。見逃したのだ。監視・情報収集とテロの未然防止は別物なのだ。

条約加盟でテロ対策?

 安倍は、東京オリンピック・パラリンピックの開催には、越境組織犯罪防止(TOC)条約加盟が必須だと言い続けている。そのための共謀罪だと。なぜ、マフィアなどの経済犯罪の防止を目的としているTOC条約への加盟がテロ対策強化になるのか。

 安倍は、「テロの資金をとめることも対策強化になる」と苦しい言い逃れをしている。見え透いたうそだ。テロ資金を断つ目的であるならば、文字通り「テロ資金供与防止条約」があり、日本はすでに2002年に締結している。いまさら、「テロ資金を断つ」ことを理由に挙げ趣旨の違う条約締結のために共謀罪が不可欠と説明するのは、まったく理屈が通らない。

 テロ対策を目的とした国際条約は数多く存在し、日本は13の条約に加盟している。例えば「ハイジャック防止条約」(71年締結)や「人質行為防止条約」(87年締結)、「爆弾テロ防止条約」(01年締結)などだ。

 サリン事件とともに現行法で対応できない犯罪の一つに挙げたのが、米国の9・11事件を想定したものだった。「テロ組織が飛行機を乗っ取り高層ビルに突撃するテロを計画した場合」。これもまた、国際条約も国内法も整っているにもかかわらず、恐怖の記憶のみを利用する悪質な世論誘導だ。

 一方、審議の中で明らかにされたのは、単独で行われる「自爆」のようなテロは、組織性がないことから、理屈上も共謀罪の対象とはならないことだ。

 法案の仕組み上も、現実の事件に照らしても、共謀罪法案が「テロ対策の強化」には役に立たないことは明白だ。


捜査当局次第

 「テロ対策」には役立たない法案を必死で通そうとしてるのは、政権にとってきわめて「役立つ」法案だからだ。

 金田法相は参院本会議で「環境や人権の保護を隠れみのにして、基本的な目的が重大な犯罪を実行することにある団体と認められる場合は処罰されうる」と答弁した。「犯罪の実行」を公然と掲げる団体などありえない。「イスラム国」でさえ、テロ行為を「結合の基礎」にしているわけではない。要するに、どんな団体であれ「隠れみの」を暴くため、捜査当局が「組織犯罪集団」となる可能性があると見なせば調査対象となるということだ。

 警察庁組織令39条は、テロを「広く恐怖又は不安を抱かせることによりその目的を達成することを意図して行われる政治上その他の主義主張に基づく暴力主義的破壊活動」と定義している。市民監視を公然と行い、「恐怖と不安」を抱かせ、政権に抗する市民運動を破壊する共謀罪は、まさしく国家によるテロではないか。戦前の治安維持法はそうしたテロを引き起こしている。内心の処罰を可能とする共謀罪は、国家テロを拡大する極めて危険な法案なのだ。
ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS