2017年06月16日 1481号

【ミリタリー 実は想定せぬ米朝「開戦」シナリオ 今、緊張緩和への努力こそ】

 『オキナワ島嶼(とうしょ)戦争』の著者である小西誠氏は4月22日の講演集会(平和と生活をむすぶ会と無防備地域宣言運動全国ネットワーク共催)で、南西諸島自衛隊増強、基地建設の動きを報道しないメディアの状況に、次のように述べた。「マスメディアが騒ぎ立てる事象は何も起こらない証拠。報道されない事象こそ実際起こりうること」

 安倍政権が必死に隠す南西諸島をめぐる「対中国海洋限定戦争」の想定と危険性は確実に存在する。一方、異常に騒ぐ米国と朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の「開戦」や日本への「核を含むミサイル攻撃」の危険性は、現在の米国や日本の軍事戦略の想定外であり、確実に存在するわけではない。もちろん、偶発的な軍事衝突拡大の恐れは否定できず、戦争挑発合戦は直ちに中止させるべきなのは言うまでもないことだが。

 『オキナワ島嶼戦争』で小西氏は「第2次朝鮮戦争」にほとんど触れていない。その理由について、「1990年代の朝鮮半島危機以来、北朝鮮の危機は幾度ともなく叫ばれており、北朝鮮の核開発をはじめとした『瀬戸際政策』で、その危機も一段と深まっていることも明らかである。しかし、北朝鮮の軍事力は米軍にとっても、自衛隊にとってもほとんど問題にならない。核戦力も、その意味では同様である」と断言する。

 実際、軍事的には、今のところ米朝いずれにも「開戦」シナリオはないことがわかる。全く勝ち目のない朝鮮は先に手を出せない。米国も、勝敗の行方ははっきりしているとはいえ、先制攻撃に対する朝鮮の「総力反撃」による米軍や韓国の被害も無視できるほど小さくはないからだ。

 朝鮮がプルトニウム型原爆を製造し始めたとの深刻な懸念が広がった94年春、「ペリー国防長官らは核施設への攻撃計画を立案し、北朝鮮が総力で反撃した場合の被害想定をした。『初期の90日間で米軍死傷者5万2千人、韓国軍死傷者49万人、北朝鮮側と民間人の被害は甚大…』と試算した。クリントン大統領は結局、作戦を見送った」(5/24東京新聞)。米韓軍の被害想定の根拠は不明だが、「北朝鮮側と民間人の被害は甚大」はまちがいない。

 今回の原子力空母カールビンソンなどを動員した派手なチキンレースは演出含みの危機≠セった。韓国にいる米国市民への退避勧告はなかったし、先制攻撃態勢の兆候を示す在日米軍などの動きもなかった。

 ところが、今にも戦争が始まるかのように危機を煽り、「対話よりも圧力」と米国や他国に働きかける異常突出の安倍政権。求められるのは、出口のない緊張激化策ではなく、緊張緩和のための対話の糸口を探る努力だ。その基本は、2005年9月の6か国協議「共同声明」だ。

 日本にしかできないこともある。拉致被害者の蓮池薫氏は言う。「国際的な包囲網で、北朝鮮が追いつめられ、日本との交渉に活路を見出そうとすれば、事態は急速に進むでしょう」「まず拉致問題を他の問題と切り離して先に交渉することです。拉致問題を解決させれば、その先には、日朝ピョンヤン宣言にのっとった核やミサイル問題の解決と、それに伴う国交正常化や経済協力という未来につながることが示され、北朝鮮も前向きになるでしょう」(5/24朝日)。拉致問題解決に向けた動きは対話の糸口の一つかもしれない。

 軍事的手段ではない解決への「あらゆる選択肢」を政府に押し付け追求させなければならない。

豆多敏紀
平和と生活をむすぶ会

 
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