2017年06月16日 1481号

【河野統幕長が9条改憲支持を公言/「個人見解」と憲法踏みにじる政府/改憲への暴走許すな】

 憲法尊重・擁護義務に明らかに違反する安倍首相の2020年改憲施行発言(5/3)。これに呼応して自衛隊制服組(職業軍人)のトップである河野克俊(かわのかつとし)統合幕僚長が安倍9条改憲を支持する発言を公然と行った。憲法も法も無視した改憲への暴走を許してはならない。

制服組トップが違憲発言

 5月23日、河野統合幕僚長は日本外国特派員協会の記者会見で「一自衛官として、自衛隊の根拠規定が憲法に明記されるということであれば、非常にありがたいなあとは思う」と述べた。

 発言は「安倍首相が最近憲法を変えたいと発言している。今の憲法、法律の中で、自衛隊に関して『今は制限されてできないが、今後していく必要がある、できるようにすべきだ』と考えることはあるか。『自衛隊の存在そのものが憲法違反だ』という専門家もいるが、それについての考えは」との質問に答えたものだ。

 憲法第99条は「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」とする。「尊重」とは「尊いものとして重んずること」「擁護」とは「破壊から守ること」である。「天皇又は…裁判官」は、憲法によって権力を縛られ憲法破壊に走ってはならない者の例示で、尊重・擁護義務はすべての公務員に課せられている。河野発言は、憲法の基本原則・平和主義のための「戦力不保持」を改変する憲法否定発言であり、「一自衛官」=公務員である立場を明確にして公の場で意図的に表明した明確な憲法第99条違反だ。

 また、改憲問題が重要な政治焦点となる中、大きく報道されることを知りながら安倍の改憲方針支持を公言するのは、自衛隊法第61条で禁じられた政治的行為だ。トップ自ら法律をも踏みにじった。

個人見解なら何でもあり

 河野発言について菅義偉(すがよしひで)官房長官は「高度な政治的な件について幕僚長として答えるのは適当ではないと明確にした上で、あくまで個人の見解として述べたものと承知している。全く問題ないと思う」と幕僚長を擁護した。問題は、個人の見解か、組織の見解かではない。公務員である「一自衛官」としての公式発言であり、憲法尊重・擁護義務に反する見解を公然と披露する人物が職業軍人のトップにいることは断じて許されてはならないのである。

 かつて、栗栖弘臣(くりすひろおみ)統合幕僚会議議長(当時)が「防衛出動命令を待たずに現場指揮官が超法規的措置をすることがあり得る」と週刊誌のインタビューに答えて解任された(1978年)。また、田母神(たもがみ)俊雄航空幕僚長が集団的自衛権行使容認の必要性などを主張した論文を投稿して免職された(2008年)。ともに、個人としての自衛官の発言が契機だ。河野幕僚長も同罪であり、解任、罷免されなければならない。

 「教育勅語の核の部分は取り戻すべきだ」と稲田朋美防衛大臣が国会で答弁した際に、菅は「所管外で個人的な発言」として国会での閣僚の発言まで「個人的なもの」と片付けている。

 一方で、菅は国連人権理事会特別報告者の公式書簡や政府への勧告を「個人的立場」と切って捨てる。国連人権理事会特別報告者とは、人権理事会から任命され、独立して同理事会に公式の報告義務を負う人権専門家だ。それを、菅は「(特別報告者は)個人の資格で人権状況の調査報告を行う立場で、国連の立場を反映するものではない」とでたらめな理由で抗議し、世界に恥をさらした。

 要は、安倍政権にとって不都合な事実はすべて「個人のやったこと」とごまかし、政府の意に沿う部分のみメディアに垂れ流させる。デマで「印象操作」を徹底し、最後は数の力で押し通すのだ。

元凶は安倍の憲法破壊

 その最たるものが安倍首相本人の改憲発言だ。5月3日読売新聞のインタビューで「2020年までの改憲」をぶち上げた。ところが、国会での野党の追及には、「自民党総裁としての発言」と立場を使い分け、「読売新聞を読め」と答弁を拒んだ。

 安倍は、2016年9月の所信表明演説で「憲法はどうあるべきか。その案を国民に提示するのは、私たち国会議員の責任であります。与野党の立場を超え、憲法審査会での議論を深めていこうではありませんか」と呼びかけている。所信表明とは内閣全体の基本方針を示す。内閣総理大臣の立場で国会議員に憲法改正原案を示せと迫る。まさに憲法尊重擁護義務の蹂躙(じゅうりん)だ。メディア統制の下、もはや憲法違反の追及などされないことを承知で、世論を改憲へと引きずっていく悪質きわまりないやり口だ。

 憲法を尊重・擁護する姿勢の全くない安倍に、首相の座に座る資格はない。立憲主義も民主主義も国民主権も破壊する許しがたい政権だ。



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