2017年06月16日 1481号

【加計問題 安倍の卑劣な証言つぶし/警察情報を使って個人攻撃/これが共謀罪の行きつく先】

 加計(かけ)学園への便宜供与を裏付ける文書が発覚し、窮地に立たされた安倍政権。すると官邸はネタ元とみられる前文部官僚の「風俗店通い」を御用メディアに報道させ、信用失墜を狙う謀略を仕掛けてきた。政権に逆らう者の“弱み”を警察を使って調べ上げ、口封じを図る−−共謀罪がもたらす監視社会とはこういうことなのだ。

「読売」の謀略記事

 安倍晋三首相の“腹心の友”が理事長を務める加計学園。その獣医学部新設が「総理のご意向」で進められたとする文科省の内部文書はやはり本物だった。5月25日、前川喜平・前文科省事務次官が会見を開き、「私が在籍中に共有していた文書。あったものをなかったことにはできない」と証言したのである。

 問題の獣医学部新設については「極めて薄弱な根拠のもとで規制緩和が進められた」「公正公平であるべき行政のあり方が歪められた」と指摘。さらに、和泉洋人・首相補佐官から早期の対応を求められたとも語った(5/30朝日)。「総理は言えないから私が代わりに言う」といった趣旨の発言があったという。

 最近まで文科省の事務方トップだった人物が、無理筋の案件を通すよう官邸からの圧力があったことを認めたのだ。首相直轄の「規制緩和」によって「お友達」のビジネスを手助けする―一連の加計学園疑惑が安倍一派による国家私物化であることはもはや明白であろう。

 政権の命取りとなりかねない告発を安倍官邸はただちにつぶしにかかった。証言の信用性を損なう人格攻撃を御用メディアと組んで仕掛けてきたのである。読売新聞は5月22日付の朝刊で「前川前次官 出会い系バー通い」と報道。教育行政トップとしての適格性に疑問を投げかけた。



 大手全国紙としては異例の報道だが、その内幕を週刊新潮(6月1日号)が明かしている。「安倍官邸は警察当局などに前川前次官の醜聞情報を集めさせ、友好的なメディアを使って取材させ、彼に報復するとともに口封じに動いたという」のだ。

 「読売」記事の影響は大きかった。「疑惑の主の話を流すのはまずい」という上層部の判断で、NHKなどが収録済みだった前川インタビューの放映を見合わせた。朝日新聞が報道に踏み切り、前川前次官が記者会見を開かなければ、告発が闇に葬られていた可能性すらあったのだ。

公安と一体の政権

 政権に都合の悪い告発者の「下半身スキャンダル」をメディアにリークする―。年配の読者の皆さんは沖縄返還協定をめぐる「西山事件」を思い出したことだろう。日米密約の存在を暴いた毎日新聞記者の「女性問題」を政府が流し、問題の本質をすり替えた事件である。

 このように、警察が集めた情報を政敵つぶしに使うのは政府の常套(じょうとう)手段なのだが、安倍政権は特にそれが著しい。首相側近に公安警察出身者を配置し、その情報を駆使して謀略政治を行っている。たとえば、「出会い系バー」の件で前川前次官を厳重注意したという杉田和博・官房副長官は、警察庁警備局長を務めた公安のエリートだ。

 また、安倍首相が最も頼りにしている側近の一人に北村滋・内閣情報官がいる。彼もまた警備・公安畑を歩んできた警察官僚だ。この北村が内閣情報調査室のトップに就任して以降、内調は「安倍政権の敵」をつぶすための謀略機関と化した。古巣の公安警察を使って、野党議員や政権批判者たちの“弱み”を調べ上げ、御用メディアにリークするというパターンだ。

 一方、政権の「身内」のスキャンダルは握りつぶす。官邸御用記者として有名な山口敬之が準強姦罪容疑で逮捕寸前までいった際、当時の警視庁中村格(いたる)刑事部長が所轄署に圧力をかけて逮捕をやめさせた。この中村は菅義偉(すがよしひで)官房長官の元秘書で「官邸の門番」とも呼ばれている。メディア対策には北村が動いた。

 警察権力を私兵のように使う安倍政権。これもまた国家の私物化と言うほかない。

奴らに武器を渡すな

 北村は官邸と警察のパイプ役として、国家安全保障会議の創設や特定秘密保護法の法案策定に深く関わってきた。警察関係者向けの書籍に、戦前・戦中の弾圧体制を高く評価する論文を書いたこともある(16年8月18日付「しんぶん赤旗」)。おそらくは「警察国家の再建」を自らの使命としているのであろう。

 共謀罪の導入はその一環である。犯行着手前の「話し合い」を罪に問う共謀罪は、警察による市民監視を必然的に拡大する。捜査当局は盗聴や通信傍受、GPS捜査や密告の奨励等を駆使し、あらゆる個人情報を収集しようとするに違いない。

 集めた情報は政権のために使われる。米国家安全保障局(NSA)による大規模な個人情報収集を告発したエドワード・スノーデンによれば、NSAはイスラム過激派とみなした人物の性癖に関する情報をネットの閲覧履歴等から集めていたという。対象を脅したり、信用を失墜させるネタに使えるとの判断からだ。

 今回の「出会い系バー」報道がまさにそれだ。共謀罪の先取り発動例と言ってよい。日本政府はすでにNSAから情報監視システムを供与されている。個人のメールや通話などの大量監視を行える状態にあるということだ。共謀罪法案が成立すれば個人情報の大規模収集を公認することになる、とスノーデンは警鐘を鳴らす(6/1共同)。

 加計学園問題は公安警察と一体化した安倍政権の謀略体質を浮かび上がらせた。連中に共謀罪という新たな武器を与えてはならない。 (M)

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