2017年07月14日 1485号

【グローバル資本のための国家戦略特区 規制緩和こそ私物化・腐敗の温床 加計疑獄は氷山の一角だ】

 加計(かけ)疑獄でクローズアップされた国家戦略特区。安倍首相が大見えを切る「産業の国際競争力強化」とは、グローバル資本の利益だけを追求し地域の産業や市民生活を破壊する。その本質は、安倍の「富国強兵」=戦争国家づくりの突破口に他ならない。腐敗と私物化の温床である国家戦略特区は廃止されなければならない。

新たな市場提供

 6月9日、「600兆円経済実現」を看板に「経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)2017」が閣議決定された。これは、資本の「稼ぐ力=収益力」強化をめざした首相直轄の「未来投資会議」の方針を下敷きにし、強力に推進するものだ。

 骨太方針は、「我が国の政策資源を集中投入する」分野として次の5つをあげる。(1)健康寿命の延伸(新しい予防・医療・介護システム)(2)移動革命の実現(自動走行、ドローン等の産業利用)(3)サプライチェーンの次世代化(個々の消費者のニーズに即した製品・サービスを創出)(4)オリンピック・パラリンピック関連施設の建設等(5)FinTech(企業の資金調達力や生産性・収益力の向上)だ。聞こえだけはいいが、どれも大企業のための新たな市場提供に他ならない。

 そのための規制改革として、国家戦略特区の推進を掲げる。「岩盤規制」改革を行い、規制の「サンドボックス」制度の創設を進める。「サンドボックス」制度とは、企業の申し出により新規参入や新事業を妨げる規制を一時凍結するもので、今国会での国家戦略特区法の改悪により1年以内に創設するとされた。企業の儲け口提供のために国民の生活と安全を無視するものだ。

儲けの障害を取り払う

 安倍は、国会閉会後の記者会見(6/19)で「ドリルの刃となって岩盤規制を打ち破っていく」と語った。このドリルの役割が国家戦略特区だ。

 国家戦略特区は2013年、国家戦略特区法により定められた。「世界で一番ビジネスのしやすい環境を創出する」の名の下に、グローバル資本、大企業にとって利潤追求の妨げとなる「邪魔な規制」を法律の改定に先駆けて政府が指定する領域・地域で取り払う。

 安倍が「岩盤規制」と呼ぶのは、労働者の権利を守るための雇用ルールや、国民の命と健康、人権を守るための様々な規制に他ならない。これが大企業にとっては邪魔で仕方がない。医療、福祉、農業、労働、教育など人間の生存にかかわる分野までも、大企業の儲け口として市場開放する。解雇自由と残業代なしの「首切り特区」構想はその典型だ。国家戦略特区のドリルで打ち砕かれるのは、国民の「生活」そして「人権」なのである。

反民主主義の私物化

 国家戦略特区の方針は諮問会議で決定される。安倍を議長とし、加計疑獄では徹底して隠蔽(ぺい)に動いた菅官房長官や山本地方創生・規制改革担当相らが議員として参加。小泉政権で弱者切り捨ての規制緩和を推し進めた竹中東洋大学教授(パソナグループ会長)なども民間議員としてメンバーに名を連ねる。たった10人の安倍のお友達と腹心の大臣によって自らの都合の良いように決定できる構成自体が反民主主義的なものだ。

 事実、竹中は、諮問会議の民間議員であることを生かし、神奈川県の特区で家事支援外国人受け入れ事業の事業者として大手人材派遣会社のパソナを認定させた。また兵庫県養父(やぶ)市の特区では、竹中が社外取締役を務めるオリックスの子会社オリックス農業が参入している。さらに、新潟市の特区にローソンファーム新潟が参入したが、この議論をリードしたのは竹中とともに安倍の産業競争力会議民間議員だった新浪ローソン会長(当時)だ。まさに自らのために岩盤規制を緩和させた。安倍をはじめとする政権グループは、規制緩和の名で、市民生活の維持のために作られてきた企業への規制を緩和することでグローバル資本の期待に応え、同時に自らの直接的利益を狙ったのだ。

特区は憲法も破壊

 国家戦略特区は、内容のデタラメさだけでなく、制度面も大問題だ。

 国家戦略特区は、本来適用されるべき法律をその地域だけ適用せず、特区の制度が適用される。指定自治体の長は諮問会議の方針に「連携」する「努力義務」が課せられており、事実上拒否権はない。そもそも特定の自治体のみに適用される法律は、憲法95条によって住民投票が義務づけられている。にもかかわらず、地域住民や市民に決定権はなく、議論もいっさいないまま安倍主導で制度まで決定される。まさに特区制度は憲法を空洞化し、地方自治・住民主権を蹂躙(じゅうりん)するものであり、民意と自治を否定する戦争国家の突破口としてある。

 徹頭徹尾、大企業のための儲け口を提供するトップダウンの国家戦略特区こそ、腐敗と私物化の温床だ。ただちに廃止されなければならない。

国家戦略特別区域諮問会議 議員名簿

議長 安倍晋三 内閣総理大臣

議員 麻生太郎 財務大臣 兼 副総理

同 山本幸三 内閣府特命担当大臣(地方創生、規制改革)

同 菅義偉 内閣官房長官

同 石原伸晃 内閣府特命担当大臣(経済財政政策)兼 経済再生担当大臣

有識者議員 秋池玲子 ボストンコンサルティンググループ/シニア・パートナー&マネージング・ディレクター

同 坂根正弘 株式会社小松製作所相談役

同 坂村健 東洋大学情報連携学部 INIAD学部長

同 竹中平蔵 東洋大学教授・慶應義塾大学名誉教授

同 八田達夫 アジア成長研究所所長・大阪大学名誉教授
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