2017年09月08日 1492号

【アベノミクスは死に体 貧困の元凶―安倍退陣で根本的転換へ】

 8月内閣改造後に安倍首相は「最優先すべき仕事は経済の再生」と語り、「人づくり革命」を目玉政策≠ノ掲げた。有識者による「みんなにチャンス!構想会議」を近々立ち上げ、その政策推進のために、なおも「アベノミクスをさらに加速させてもらいたい」と強調。具体的には「教育の無償化」「待機児童の解消」「社会人の学びなおしの支援」などを挙げた。

 だが、これらは安倍政権の下で重要とされながら一向に前進していない。改造を機に「優先課題」とされたものの、再度失敗するに違いない。必要な財源も明らかにされていない。失敗のときの言い訳が目に浮かぶ。いまだ道半ばである∞成長の果実がいきわたるまでには時間がかかる=\そこには決して失敗を認めない姿勢がある。安倍政権は検証と反省に無縁なのだ。

アベノミクスは失敗

 加速させる≠ヌころか、アベノミクスはもはや死に体である。

 アベノミクス第一の矢である大胆な金融政策は、日本銀行の質的量的金融緩和によって物価上昇率2%を2年以内に達成することを目標としていた。4年半経ってもその目標は実現されず、6度目の先送りとなる。この一例だけで失敗が明らかだ。



 さらに指摘しよう。2016年度の国の税収は55兆4700億円となり、15年度の税収から8200億円の減少となる。税収が前年度を下回るのは09年以来の出来事であり、「アベノミクスの成長の果実」は未熟のままなのだ。

 にもかかわらず、政府は「景気が回復している」と強調する。たとえば、内閣府・景気動向指数研究会は「『アベノミクス景気』の拡大が足下まで継続している可能性が高いとの認識で一致した。今年4月で期間は53か月に及び、(中略)戦後3位の長さに達した」(6/15産経)とする。内閣府の月例経済報告も、6月と7月で「景気は緩やかな回復基調が続いている」とし、先行きについて「緩やかに回復していくことが期待される」とする。

 この「景気回復」は円安による企業の収益増や公共事業によるところ大であり、「過去の回復局面と比べると内外需の伸びは弱い。雇用環境は良くても賃金の伸びは限られ、『低温』の回復は実感が乏しい」(4/6日経)という実態だ。つまり、政府の説明は株高と公共投資で潤った資本の側に立ったものでしかなく、労働者・市民の立場から見たものではない。

 失敗を指摘すると、アベノミクスで株高と円安が進んだではないか≠ニ反論する。だが、その内実も怪しい。円安については日銀が異次元の金融緩和で円安を誘導してきたからだ。株高も同様に演出されてきた。

 日銀と年金積立金管理運用独立行政法人が年金積立金など公的資金を大量に株式市場に投入している。二者が保有する株式は、14年3月末時点から2倍以上となり、株式市場の8・7%を占める。これほどの割合になると、政府の意のままに官製相場をつくることが容易となり、株式市場そのものが不正常になりかねない。経済成長で株高になっているわけではないのだ。

アベノミクスで貧困化

 日銀の黒田総裁は物価上昇が鈍いことについて、「デフレマインドの転換に時間がかかっている」と解説した。デフレマインドとは、デフレが定着してしまったためにそれに慣れ親しんだ心理状況などから消費活動が低迷することを意味する。人びとの気持ちが消費に向いていないから物価上昇が実現できないのであり、時間がかかっても気持ちが消費に向けば目標は達成される。だから先送りをすればいい≠ニいうものだ。

 消費活動が低迷するのは人びとの気持ちが主因なのではない。買いたくても買えない現実があるからだ。実質賃金を見ると、安倍政権発足前の11年11月に395万円であったものが今年5月には377・7万円となっており、約17万円減っている。さらに、実質消費支出も、対前年同月比を14年4月から今年7月までを見ると、4回の増以外は軒並み減である。賃金減による消費低迷は統計からも裏付けられる。



 人口の3割を占める年金受給者の収入減も消費に大きな影響を与えている。13年から15年に特例水準解消で年金収入は1兆2500億円の減、15年度のマクロ経済スライドで4500億円の減、17年度には物価変動でさらに500億円の減となる。合計1兆7500億円が減額されており、医療・介護負担の増加と併せて高齢者の生活はきわめて苦しい状態におかれている。

 アベノミクスこそが貧困化を進めてきたのである。

 したがって結論は明らかだ。大企業の内部留保や株主配当のみが増えるという経済状態を変え、賃上げ、最低賃金引き上げ、年金制度の拡充で労働者・市民の収入を増やすべきである。
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