2017年09月29日 1495号

【朝鮮ミサイル発射/休戦協定を和平協定に/挑発と制裁で解決はない】

 9月15日、朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)がまたもや弾道ミサイルを発射した。挑発と制裁の繰り返しでは解決しない。朝鮮半島の軍事緊張の原点である第二次世界大戦、朝鮮戦争に立ち返り、朝鮮の核・ミサイル開発の口実を一つひとつなくしていく対話と根本的な信頼醸成だけが唯一の打開の道だ。

朝鮮追い詰めた米国

 朝鮮の核開発の狙いは、米国を2国間交渉に引きずり出し、自国の安全を保障させることだ。金日成(キムイルソン)、金正日(キムジョンイル)、金正恩(キムジョンウン)3政権にわたる核兵器への衝動の根は、米国による休戦協定破りにある。

 第二次大戦終結による日本の植民地支配からの解放後、北緯38度線を境に北は旧ソ連が南は米国が軍事占領・信託統治。1948年、韓国、朝鮮両政府が成立する。

 1950年、旧ソ連・中国の支援を受けた朝鮮軍と、韓国軍の戦闘に、「国連軍」として米国が軍事介入する朝鮮戦争が勃発。米国は戦況が不利になると休戦協定を提案し、1953年に朝鮮人民軍、中国人民志願軍、国連軍の各司令官が署名、休戦となった。

 休戦協定第60項には「休戦協定発効後3か月以内に政治会議を開催し、すべての外国軍の朝鮮半島からの撤退、朝鮮問題の平和的解決、その他の諸問題の交渉による解決」「敵対行為の禁止」が盛り込まれている。

 だが米国は政治会談開催へ向けての予備会談をボイコット。国際的批判を浴びてしぶしぶ政治会議に出席したが、外国軍撤退、平和条約締結に反対して会議を決裂させた。その間に米国は韓国と「米韓相互防衛条約」を締結した。これは、米国が陸海空軍を韓国領内とその附近に配備する権利を得るというもの。

 米国は他国軍を朝鮮半島から撤退させ、自らは韓国内に居座ることで軍事的影響力の維持・拡大をもくろんだ。

 米国は韓国軍の作戦統制権を手に入れ、韓国内に戦術核兵器を配備。自衛隊発足、日米安保条約と相まって、日米韓の軍事同盟を完成させた。米施政権下の沖縄にも1300発近い核兵器が配備・備蓄されていた。

 一方、中国軍と旧ソ連軍は休戦協定発効後、朝鮮半島から撤退。91年、ソ連崩壊で朝鮮は単独で日米韓の軍事的脅威と対峙することとなる。朝鮮半島、日本への米軍駐留と日常茶飯事のように行われる日米韓軍事演習による圧力は、朝鮮にとって喉元に突き付けられた刃だ。

交渉の道閉ざす日米

 朝鮮と韓国は1991年、相互査察などを定めた南北非核化共同宣言を発効させた。だが翌93年、朝鮮はNPT(核不拡散条約)から脱退を宣言(のちに保留)し、続いて中距離弾道ミサイル「ノドン」の発射実験を強行。核開発を加速し「瀬戸際外交」に走ることとなる。

 朝鮮が米国に求めているのは、不可侵の保障、朝鮮戦争以降続いていた経済制裁の解除、政治・経済関係の正常化だ。これ自体は主権国家として当然の要求だ。

 問題解決への大きなチャンスは幾度もあった。

 第一は、94年の米朝枠組み合意(注1)だ。だが、クリントン民主党政権による調印直後に枠組み合意に反対する共和党が議会多数派となった。その結果、米国による軽水炉の提供や石油供給が遅々として進まず、03年ブッシュ共和党政権が決裂させた。

 そのブッシュ政権は02年、朝鮮をイラク、イランと並べて「悪の枢軸」と呼び敵視。翌03年、朝鮮はブッシュのイラク侵略戦争によるサダム・フセイン政権崩壊を目の当たりにすることとなる。

 第二は、朝鮮核開発問題をめぐる6か国協議だ。構成は中国・朝鮮・日本・韓国・ロシア・米国で03年に開始された。協議は07年の第5回会合で共同文書(注2)採択までこぎつけたが、第6回会合ののち休会したままだ。

 協議中もブッシュ政権は朝鮮を「世界で最も危険な政権」と批判し、朝鮮の海外資産凍結を進める一方、朝鮮もミサイル発射実験を強行し6か国協議とは別に米朝2国間協議を要求した。日本も核開発とは直接関係しない拉致問題を持ち出し、会議を混迷させた。

 また、休会後に政権についたオバマ米大統領は、朝鮮が核放棄するまで無視する「戦略的忍耐」の方針をとり、当事者としての責任を放棄した。

 第三は、02年の日朝ピョンヤン宣言(注3)だ。02年9月17日、小泉首相(当時)が朝鮮の首都ピョンヤンを電撃訪問し調印した。宣言には、朝鮮のミサイル発射停止継続が盛り込まれた。

 だがこれも、日本側が拉致問題を優先したことで第2回首脳会談(04年)以降開催されずに時が過ぎ、06年には朝鮮がミサイル発射実験を強行。日本政府は制裁強化で対立を強め、宣言はたなざらしにされている。

軍拡・改憲に利用する安倍

 問題は、朝鮮戦争が和平に至っておらず、休戦後60年を経ても米国さらには日本が朝鮮敵視を続け、トランプや安倍が対立を煽(あお)っていることだ。このことが朝鮮の核・ミサイル開発に口実を与えている。その朝鮮の核開発を、内政の行き詰まりから国民の目をそらすためトランプ、安倍は利用する。安倍政権に至っては、Jアラートの発報で市民に恐怖心を植え付け、敵基地攻撃能力の保持など軍拡と憲法9条改憲に向けた世論形成までもくろんでいる。

 対立は解決を妨げ、戦争の危機を高める。対立をあおり続ける安倍を即座に政権から引きずり降ろさなければならない。

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(注1)米朝枠組み合意(要旨)

 米国側は朝鮮へ軽水炉の提供・石油供給を行い、経済制裁を解除する。

 朝鮮は朝鮮半島非核化共同宣言を履行し、NPT(核不拡散条約)に残留し、IAEA(国際原子力機関)査察再開を受け入れる。

 双方は政治・経済関係正常化への行動をとる。

(注2)6か国協議共同文書(要旨)

 朝鮮は核関連施設の停止および封印を行いIAEAの査察を受ける。

 他の5か国は重油供給など経済・人道支援を行う。米・朝、日・朝は国交正常化に向け協議を開始する。

 米国はテロ支援国家指定の解除・経済制裁終了への作業を進める。

(注3)日朝ピョンヤン宣言(要旨)

 日朝双方は、国交正常化早期実現に向けあらゆる努力を傾注し、2002年10月中に日朝正常化交渉を再開する。国際法を遵守し互いの安全を脅かさない。北東アジア地域の平和と安定のため協力。朝鮮半島核問題について関係国間の対話を促進し、問題解決を図る必要性を確認。

 日本は植民地支配に対する痛切な反省と心からのおわびを表明。国交正常化後、朝鮮に経済協力を実施する。日本国民の生命安全に係る懸案問題(拉致問題)について朝鮮は再発防止策をとる。

 朝鮮はミサイル発射のモラトリアムを03年以降も延長。

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