2017年10月06日 1496号

【シネマ観客席/米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名は、カメジロー/監督 佐古忠彦 2017年 TBSテレビ 107分/オール沖縄の原点ここにあり】

 精霊が宿る木として知られるガジュマル。枝からでた無数の気根が巨大な幹のように成長した姿は圧巻だ。このガジュマルを男はこよなく愛した。「どんな嵐にも倒れない。沖縄の生き方そのもの」だと。男の名は瀬長亀次郎。米軍統治下の沖縄で、圧政と闘い続けた民衆のリーダーである。

 本作品は、沖縄人民党の党首、那覇市長、そして衆院議員として活躍した瀬長亀次郎の生涯を通して、沖縄の戦後史を描き出したドキュメンタリーである。TBS報道記者兼ニュースキャスターの佐古忠彦が初監督を務めた。

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 元々はテレビのドキュメンタリー番組だけあって、大変わかりやすい構成の作品だ。実際、「オール沖縄の闘いの原点がわかった」という感想が多数寄せられている。政府の圧力に屈しない粘り強さの理由が理解できたというのだ。

 「基地撤去、祖国復帰」を公然と掲げ、演説会を開けば毎回何万もの人を集めた亀次郎。その影響力を恐れた占領当局は、事件をでっちあげて投獄する。だが、民衆の支持をなくすことはできなかった。1年半の獄中生活を終えた亀次郎は那覇市長選に出馬。数々の妨害工作をはね返し、見事当選を果たす。

 占領当局による瀬長市長追い落とし策動はすさまじかった。軍出資の銀行に圧力をかけ、那覇市への補助金と融資を打ち切らせた。市の預金も凍結。あげくのはては那覇市への水道供給まで止めた。

 この大ピンチに民衆が奮い立った。米軍の弾圧から我らの市長を守ろうと自主的な納税にかけつけたのだ。「アメリカーが瀬長市長をいじめるから、税金を納めに来たさー」。納税率は飛躍的に上がり、公共工事再開など、市政運営の危機を脱したという。

 兵糧攻めは通用しないと悟った占領当局は強硬手段に出た。「追放布告」を出して市長の座から引きずり下ろし、さらには過去の投獄を理由に被選挙権まで奪った。しかし、亀次郎は屈しなかった。市民を前にこう宣言したのである。自分を追放しても「第2の瀬長」が必ず現れると…。

 「本土」の私たちが知らない沖縄戦後史。民主主義無視の暴政と闘ったリーダーを民衆が支えた。その歴史の延長線上に今の「オール沖縄」の闘いがある。亀次郎が好んだ言葉を使えば、不屈の魂が受け継がれているのである。

 人びとを熱狂させた演説がある。「この瀬長一人が叫んだならば50メートル先まで聞こえます。ここに集まった人が声をそろえて叫んだならば全那覇市民まで聞こえます。沖縄の90万人民が声をそろえて叫んだならば、太平洋の荒波をこえて、ワシントン政府を動かすことができます」

 民主主義とはこういうことではないか。  (O)

・劇場案内等は公式サイト参照。

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