2017年10月20日 1498号

【どくしょ室/JRに未来はあるか/上岡直見著/緑風出版/本体2500円+税/民営化30年の結末を断罪】

 かつて「赤字」を理由に分割民営化された国鉄は、公共企業体として38年の歴史を持つ。JRも今年で30年。国鉄とほぼ同じ年数を経過したJRも歴史的評価を下す時期に来ている。環境経済研究所代表として長年、環境問題の立場から鉄道復権を訴え続けてきた筆者がこの課題に挑む。

 筆者は、国鉄時代と比べ、JRになってサービスは向上したか、安全性は向上したか、地方交通線はどうなったかを検証している。分割民営化に当たって自民党は「明るく親切な窓口に変身します」とバラ色の新聞広告を出した。だが今は地方の駅にはそもそも駅員がいない。先日も視覚障害者が駅員のいないホームから転落し死亡したが、国鉄時代は、窓口では無愛想でも人がホームから転落すれば助けてくれる駅員がいた。コストがかかる駅員は置かないから乗り換えは自分で調べろ、切符は自分で買って改札も自分で通れ、ホームから落ちたときも自分ではい上がれ―筆者は「駅」の軽視こそ国鉄崩壊の始まりだったと指摘する。

 「困っている人を国が助ける必要はない」に賛成する人の割合が、日本は米国さえ上回り、38%と先進国最悪になったとの調査結果もある。国鉄分割民営化以降の新自由主義政策によって、自力でホームにはい上がれない人を積極的に見捨ててきた日本の現状だ。その罪深さを強く感じる。

 大都市の超満員すし詰め列車と、過疎化の進行で全営業`の半分が「維持困難」となったJR北海道。どちらも民営化で鉄道が採算性原理に直接さらされるようになり、設備投資が減少したことに起因する。鉄道を道路のような公共財とみなし、十分な設備投資を行えるよう国が支える仕組みがなければ両方とも解決しないという筆者の主張には説得力がある。

 貨物輸送にもスポットを当てている。現在、宅配便を中心にドライバー不足が社会問題化しているが、大量高速輸送に適した鉄道に荷物を移していればこのような事態にならなかった。全列車`の3分の1を貨物列車が占める北海道では貨物輸送で多くの路線を維持できる。政府の無策を追及し、政策を転換させる必要がある。

 この他、リニアにも1章を割いて考察。また、戦後日本では自動車事故だけで太平洋戦争に匹敵する死者が出ている事実も指摘し、自動車による社会的損失と公共交通への転換を訴える。

 相次ぐ大事故とサービス低下。北海道の廃線危機。30年間、国が鉄道を市場原理に任せたまま無策で過ごしてきた当然の結果だ。解決手段はあるのか。

 「外国では民営化された鉄道の再国有化の例もあり、真に国民本位の交通政策を指向するのであればあらゆる選択肢がある」。本書はJR再国有化を提案する。民営化30年の評価としてふさわしい結論だ。 (C)
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