2018年02月23日 1515号

【未来への責任(243)明治の近代化の真実を学ぶために】

 昨年12月に日本の強制動員真相究明ネットワークと韓国の民族問題研究所が共同制作したガイドブック『「明治日本の産業革命遺産」と強制労働』を紹介したい。

 「明治日本の産業革命遺産」には三菱高島炭鉱(高島・端島「軍艦島」)、三井三池炭鉱、日本製鉄八幡製鉄所、三菱長崎造船所といった、当時朝鮮人だけでなく中国人や連合軍捕虜に対する「強制労働」の歴史が刻み込まれた「遺産」が含まれていた。そこでユネスコ世界遺産への登録(2015年)に際しては韓国政府から「強制連行の歴史」が抜け落ちているとの抗議を受け、日本政府は「1940年代にいくつかのサイトにおいて、その意思に反して連れて来られ、厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者等がいたこと、また、第二次世界大戦中に日本政府としても徴用政策を実施していたことについて理解できるような措置を講じる」ことを公約してようやく登録が認められたものだった。

 しかし昨年11月末にユネスコに提出された政府報告書はその公約を反故(ほご)にするものだった。報告書には、強制労働の歴史を伝えるための「産業遺産情報センター」を「遺産」のある九州から遠く離れた東京に設置することや、その内容は検討中としながら「朝鮮人労働者を含む労働者に関する情報収集」については政府が責任を持って行うのではなく「一般財団法人産業遺産国民会議」にさせるというものであった。

 昨年12月4日、産経新聞1面は「櫻井よしこ 美しき勁(つよ)き国へ」というコラムで「軍艦島証言早く公開せよ」という記事を掲載した。「過ちがあれば認め、しかし、冷静に事実に沿って主張するのが王道だ」と書き出し、「事実は正直で、雄弁である。透明な事実こそ、日本がよって立つ唯一の基盤なのだ」と結ばれるこの記事の中で、ガイドブックを取り上げて批判している。「日韓の反日左派勢力の協力」のもとでつくられた「不条理な非難が満載」なのでこれに対抗する「日本側の反論の材料」として「旧島民の録音テープ」を公開せよと主張した。また12月19日には「『真実の種』を育てる会」なる団体が「軍艦島は監獄島ではありません」という緊急報告集会を開催し、その直後の12月22日には産業遺産国民会議のホームページの「軍艦島の真実―朝鮮人徴用工の検証―」というサイトが更新された。

 すでにホームページには「誰が歴史を捏造しているのか」など3本のメッセージ映像で軍艦島の強制連行の歴史を否定する元島民の証言を公開していたが、「書籍への反論」と題して林えいだい氏などの軍艦島の強制連行を伝える著作の一部分を切り取ってそのような事実はなかったとする検証抜きの元島民の証言や恣意的な資料を「関連資料ライブラリー」として公開したのである。

 「富国強兵」「殖産興業」のスローガンのもと朝鮮半島の植民地化とアジア侵略のための産業基盤整備としての明治の産業近代化の負の側面と強制労働の事実を覆い隠すのは歴史の歪曲である。明治日本の近代化とは何であったのかをしっかりと学ぶ材料としてこのガイドブックを活用してほしい。

(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会 中田光信)

◆ガイドブックは1部500円(送料込み)。真相究明ネット【郵便振替口座 00930-9-297182】まで。

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