2018年03月09日 1517号

【未来への責任(244)進む元素分析による遺骨特定(上)】

 2月8日、参議院議員会館で国会議員を交えて「第4回 韓国人戦没者遺骨返還についての厚労省との意見交換会」が開催された。

 私たちはこれまでの「戦没者遺骨収集推進法」成立過程でいくつかの成果を勝ち取ってきた。塩崎厚労大臣(当時)から「遺族の気持ちは国境に関係なく同じである。朝鮮半島出身者については、外交交渉に関わる問題であるが、遺族の気持ちに強く配慮をしていくべきという指摘、意向をしっかりと受け止め、韓国政府から具体的な提案があれば真摯に受け止め政府部内で適切な対応を検討する」との答弁を引き出したり、DNA鑑定の対象部位を歯だけでなく手足の四肢骨まで広げさせるなど。

 今回の最大のテーマは、厚労省が「安定同位体比分析による判定」を認めるか否かにあった。「安定同位体比分析」とは、遺骨の中にある元素を調査することによって、その出身地域(国や都道府県レベルまで)を特定する手法である。それが可能であれば、私たちの望む「遺骨を故郷へ帰す」ことが可能になるからだ。近年研究が進んでおり、私たちは米軍戦没者遺骨鑑定機関(DPAA)や韓国(国防部遺骸発掘鑑識団)がすでに採用していることを突き止めた。そして歯科医向けの雑誌に防衛医科大学染田助教の「歯は生まれ故郷の記憶を刻んだタイムカプセル〜歯の元素分析による戦没者遺骨の日・米・現地住民の分別の試み〜」(『歯界展望』2017・4)という文章に行き着いた。以下引用する。(染田助教のホームページは「元素分析による身元不明遺体の出身地域推定」で検索)

 「先の大戦の戦没者の遺骨収集は、終戦以降、厚生労働省やNPO、NGO団体などによって長年行われてきました。しかしながら、現在一部地域では、遺骨収集現場における日本兵、米兵、及び地元住民の3者の遺骨の混同が大きな社会問題、外交問題となっており、事業推進の大きな障害となっています。このため、収集された遺骨についてこの3者を分別する方法の確立が急務となっています」「出身地域別にみた人体硬組織中の元素の特徴(濃度や安定同位体比)についての検討を行ってきました。環境中の酸素、炭素、窒素、硫黄、鉛、ストロンチウムといった元素の特徴は、気候、土壌や地理的条件の特徴を反映して地域別に多様な分布を示すことが知られています。これに、土地土地の食習慣の違いが加わることで、そこに住むヒトの体内における元素の特徴には、さらに多様なバリエーションが加わることになります」「これらの方法を実際に沖縄県で収容された戦没者遺骨のうち、所持品から米兵の蓋然性のあるものに適用したところ、米兵である可能性がきわめて高いとの判定結果が得られました(琉球大学医学部人体解剖学講座との共同研究)。この結果は、DPAAに連絡され、平成28年10月に引き渡しがなされました」

 なんと、「安定同位体比分析」を用いて、すでに遺骨をアメリカに引き渡していたのだ。

(「戦没者遺骨を家族の元へ」連絡会 古川雅基)

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