2018年03月21日 1519号

【3・11 7年 一貫して放射能安全神話作り 政府から市民団体まで 総動員で国家的「洗脳」】

 3・11後の福島では、時には国が直接乗りだし、時には「御用市民団体」やメディアを使いながら、途切れることなく放射能安全キャンペーンが続けられてきた。その結果、被曝の健康への影響や食品汚染について声を上げる市民は徹底的に叩かれ、声も上げることができなくなった。原発事故から7年。放射能「安全神話」作りの動きを検証する。

官製「エートス運動」

 原発事故後、早い段階で表面化したのは「エートス運動」だ。住民を「自らの意思」で汚染地にとどまらせ、放射線「防護」をしながら生活させるためのICRP(国際放射線防護委員会)勧告111号に基づいた運動である。勧告の執筆者、ジャック・ロシャールICRP副委員長が市民らと放射能防護策を話し合う「ICRPダイアログセミナー」は福島県伊達市を中心に繰り返し行われた。地元メディアを参加させ大々的に宣伝。ロシャールが伊達市の高校を訪れ、生徒と放射能防護を話し合うなど、若者をターゲットにした放射能安全神話作りはこの頃すでに始まっていた。

ここにも昭恵夫人登場

 2015年に入ると、福島原発に近い福島県浜通りの国道6号線で、若者を大量動員して国道の清掃活動が行われるようになった。「みんなでやっぺ!きれいな6国」と題したこの清掃活動では、放射性物質を大量に含んだホコリが舞い上がる危険な清掃活動を、大勢の高校生がマスクもつけずに実施した。放射能の危険性を訴える地元市民団体が、清掃活動の行われた場所で1平方bあたり15万9千ベクレル(放射線管理区域の4倍)もの放射性物質を測定した。

 この危険極まる活動を推進しているのはNPO法人ハッピーロードネット(西本由美子理事長)だ。国土交通省、環境省、復興庁をはじめ、福島県、地元市町村、警察、トラック協会、はては東京電力や地元メディアに至るまで「官・業・報」のあらゆる組織が後援に名を連ねている(表)。地方のNPO法人主催のイベントにこれほどの後援がつくのは他に例がなく、この「被曝強要」清掃活動が安倍政権総がかりの国家的イベントであることを物語る。



 2017年7〜8月、ハッピーロードネットは中高生にベラルーシを視察させる事業を行った。チェルノブイリの教訓を福島で活かすためではなく、両者の「違いを学ぶ」ためだ。この視察には『しあわせになるための福島差別§_』著者の開沼博も同行。

 視察後の生徒からは「放射能以外にも有害なものがあると気付くことが大切」などの意見が出された。高校生が現地でホールボディーカウンターによる内部被曝検査を受けながら、引率の教師が検査結果を受け取らないまま生徒を帰国させたと、現地の受入団体が証言している。徹底的に生徒を「安心」させるためだけの視察なのだ。

 「安倍昭恵首相夫人に(ベラルーシ訪問)事業の報告及び、意見交換をさせて頂きました」―ハッピーロードネットのホームページには誇らしげにこう書かれている。理事長の西本は改憲団体「美しい日本の憲法をつくる国民の会」呼びかけ人だ。安倍政権の政策に、昭恵夫人と「お友達」が下から翼賛運動を作り上げる。森友問題と同じだ。

県営「洗脳センター」

 2016年7月、三春町に福島県環境創造センターが開設された。福島県の「環境回復・創造の拠点」として、4年間かけて整備が進められてきたこのセンターは、福島で原発事故などなかったかのように、放射線の有用性や安全性だけを一方的に宣伝する。県内の小学校5年生は社会見学で必ずこのセンターを訪れることになっており、放射能安全神話を一方的にすり込まれる。福島が安全なことが理解できた、安心して福島で暮らしていきたい、など放射能による被曝と「共存」する意思を示す子どもたちの感想文が掲示されている。

 若者をターゲットにしたこうした「洗脳」教育の影響を荒唐無稽と軽視してはならない。かつて「天皇は神様」「天皇のために死ね」と教えられた若者たちは、教えの通りアジア侵略戦争に身を投じ、多くの命が失われた。今、福島で行われている放射能安全神話作りは、若者に「お上の言うことは疑うな」「国策のために死ね」を注入するものだ。洗脳教育を主導しているのが西本ら改憲勢力であることは決して偶然ではない。

 チェルノブイリのような大規模な住民避難は行われず、除染の効果も限定的だ。誰も責任を取らない原発事故が起きてしまった福島では、もはや事故前どおりの被曝のない生活を取り戻すことはできない。だが、「加害者との対話」活動で住民が一方的に沈黙させられる日常の先に福島の未来など開けるはずがない。安倍政権やその取り巻きと闘ってこそ未来は開かれることを、私たちも粘り強くアピールしなければならない。
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