2018年04月06日 1521号

【文科省「授業調査」の怪/憲法・教育基本法に反する不当介入/犯行の陰に安倍チルドレン】

 主犯はやはり安倍チルドレンだった。前川喜平・前文部科学事務次官を講師に招いた名古屋市立中学校の公開授業に文科省が介入した。その発端は自民党国会議員の執拗な「問い合わせ」だった。安倍首相に連なる「極右」の要求に官僚が追従し、違法行為に手を染める。この構図、森友学園をめぐる問題とまったく同じではないか。

調査と称した恫喝

 前川前次官を講師に招いた公開授業は2月16日に行われた。全校生徒に加え、保護者や地域住民も参加した。講演のテーマはキャリア教育。政治的な話はなかったという。ところが文科省は3月1日、名古屋市教育委員会に異例の調査メールを送付した。6日にも追加質問を送った。

 メールでは、前川氏について「天下り問題により辞職し、停職相当とされた」「在任中、出会い系バーの店を利用していたことが公になっている」と指摘。そのうえで「道徳教育を行う学校で授業を行ったことについて、校長の見解を具体的にご教示ください」などと問い、講演録や録音データ等の提供を求めた。

 国が個別の授業内容を細かく問いただし、講師の人選に難癖をつける――文科省の行為は、憲法や教育基本法が禁じた国家権力による教育内容への不当な介入にあたる。調査と称した恫喝であり、学校現場を委縮させるものだ。

 国家の強い統制の下、軍国主義を注入した戦前の教育の反省にもとづき、現在の教育制度は地方自治の原則が採用されている。国の役割は教育条件の整備等に限られ、教育内容には踏み込まないことになっている。

 この制度設計に文科省が忠実だったわけではない。様々な口実をつけて教育現場への介入を行ってきた。とはいえ、今回のような違法丸出しの行為はさすがに避けてきた。しつこく絡むような質問文も異様で、とても官僚が作成した文章とは思えない。

 案の定、文科省の背後には自民党の国会議員がいた。同省に圧力をかけ、現場を「調査」するよう促していたのである。議員の一人は質問項目の添削までしていた。

ちびまる子にクレーム

 最初に騒ぎ立てたのは、名古屋市を選挙区とする池田佳隆衆院議員。文科省が作成した質問案をチェックしていた議員だ。日本青年会議所(JC)会頭を経て2012年に初当選。「安倍首相のまな弟子」を自称し、日本会議国会議員懇談会、神道政治連盟国会議員懇談会、沖縄ヘイト発言で物議を醸した文化芸術懇談会に所属。典型的な安倍チルドレンといえる。

 池田はJCの会頭時代から歴史歪曲策動に熱心で、日本の侵略戦争と植民地支配を正当化するDVDアニメを作成している。2006年12月、このDVDを安倍首相に進呈したところ、翌年5月、DVDを使った近現代史教育プログラムが文科省の事業に採用された。またこのパターンかと、うんざりする。

 池田から前川講演の知らせを受け、文科省に「確認」を求めたのは赤池誠章参院議員。彼もまた「自主憲法制定」や「徴兵制導入」を持論とする札付きの極右政治家で、日本会議議員懇では事務局次長を務めている。

 赤池と言えば、「ちびまる子ちゃん」クレーム事件が有名だ。文科省は2015年、『映画ちびまる子ちゃん イタリアから来た少年』とタイアップした啓発ポスターを作成した。そのキャッチコピー「友達に国境はな〜い!」に赤池はかみついた。

 いわく「国家意識なき教育行政を執行させられたら、日本という国家はなくなってしまいます」「文科省の担当者には猛省を促しました」。どう見てもゴロツキ右翼の言いがかりだが、赤池の弁だと、このような圧力はよくあることのようだ。今回の一件でも「各省庁への事実確認は日常業務」と居直っている。


安倍の召使と化す

 安倍信者の赤池や池田にとって、前川氏は「教祖様の仇敵」である。そんな人物が授業するなんて許せない、となったことは容易に想像がつく。問題は文科省だ。明白な違法行為を強いる要求になぜ従ってしまったのか。

 安倍首相は自分の思想と歴史観に共鳴する2人を自民党文部科学部会の重要ポストに就けている(赤池が部会長、池田は部会長代理)。極右議員のゴリ押しを文科省側が拒めないような仕組みがつくられていたのだ。

 事実、文科省の現役職員は「特に赤池さんは文部科学部会の部会長ですから、機嫌を損ねると文科省のあらゆる案件の与党審査が滞る」と証言する(3/21TBSニュース)。もし逆らえば左遷は確実だ。内閣人事局の設立(2014年5月)により、官僚の人事は官邸が支配するようになっているからだ。

 全体の奉仕者(憲法15条2項)であるはずの公務員が政権の下僕と化し、安倍一派に媚びまくる。平気でうそをつき、順守すべき法まで無視する…。授業圧力も公文書改ざんも根っこは同じだ。安倍政権がこれ以上続けば、この国の民主主義は修復不能になってしまう。一日も早く終わらせねばならない。  (M)

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