2018年04月06日 1521号

【放射能を気にしなければ、しあわせになれるのか?/『しあわせになるための「福島差別」論』批判・学習集会】

 反原発の立場を表明する学者・文化人が出版した『しあわせになるための「福島差別」論』(かもがわ出版)。この本が原発被害者支援の運動に悪影響を及ぼしている。放射能汚染の監視を続ける京都・市民放射能測定所は3月21日、京都市内で学習集会を開催した。会場は満杯。関心の高さを示した。

 この本は「低線量被ばくの健康被害は証明されていない」との立場から、「被ばく被害を煽る論調が福島差別を助長し、不幸を招いている」と主張する。

 主催者の測定所副代表福島敦子さんは、本の「はじめに」(福島大学名誉教授清水修二)を取り上げる。「福島県人に対する人権侵害がある。清水さんは加害者は差別する人というが、私は、国、東電だと思う」。福島さんは原発賠償訴訟京都原告団共同代表でもある。本書批判の基本的視点だ。

 講演者のひとり、憲法学者の中里見博さん(大阪電気通信大学教員)は、仮に「放射線の健康被害が科学的に未解明」としても、「どの程度危険かわからないという不安・恐怖感を与えることは平穏生活権の侵害」と指摘した。事故当時、福島大学の教員で、避難生活を経験している中里見さん。「憲法第25条の健康・文化権、前文の平和的生存権、それに加える第3の生存権として、原発を完全に放棄させる権利とできないか」と問題意識を語った。

 物理学者の山田耕作さん(京大名誉教授)は、被ばくによる健康被害の事実をいくつもあげ、この本の出版は帰還政策に呼応した被害隠しだと指摘。特に著者の一人、放射線防護学を専門とする立命館大学名誉教授安斎育郎が自然界にある放射性物質と人工の放射性物質を区別せず、体内蓄積による内部被ばくの危険性を無視していると強調した。

 日本科学者会議京都支部代表幹事の宗川吉汪(よしひろ)さんは、福島県民健康調査の本格調査データから、放射線量の高い地域が小児甲状腺がんの罹患率が高いことを明らかにした。本では、先行調査データだけ使い、影響はないと結論付けている。「被ばく被害がないのであれば、反核も反原発もしなくていい」と著者の一人、原水禁世界大会の運営委員会共同代表をつとめた日本大学准教授野口邦和を批判した。

 会場から、保養事業に取り組むジャーナリスト広河隆一さんが発言。「この本は圧力。福島現地ではますます不安を口に出せなくなっている。保養事業を否定するもので、放ってはおけない。東京でも4月に集会を準備している」。福島の母親にアンケートをとったところ、保養事業を続けてほしいとの回答が多数だったことを紹介した。現地に寄り添うとはこういう取り組みなのだと納得できる。

 「避難先で被ばくしては意味がない」。避難者の不安に応え、2012年5月京都・市民放射能測定所が活動を始めた。事故後7年経って、測定依頼は減ってきているという。放射能汚染隠しが強まる一方で、大飯原発など再稼働が強行されている。あらためて、測定所の役割が高まっている。
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