2018年04月13日 1522号

【どくしょ室/私物化される国家 支配と服従の日本政治/中野晃一著/角川新書/本体820円+税/新自由主義時代の保守反動】

 本書は、森友加計問題に象徴される安倍政権による国家の私物化がどのようにして生まれ、その意味は何か、またどう抗うことができるかを明らかにしている。

 安倍首相は祖父岸信介を尊敬してやまないと言われ、祖父がなしえなかった自主憲法の制定を自らの最大の政治目標と掲げる。しかし、岸と安倍では大きな違いがある。岸は、強い国民国家実現のためではあれ、「福祉国家の完成」「民生の安定」を掲げた(結成時1955年の自民党綱領)。対する安倍は、もはや福祉ではなく「自立自助」を基本とし、「家族、地域、国家への帰属意識を持ち公への貢献と義務を誇りを持って果たす国民」を「取り戻す」ことが重要とする(2010年綱領)。

 筆者は、こうした違いは、安倍がポスト冷戦の新自由主義グローバル化時代の保守反動の旗手だからと分析する。冷戦下の岸が社会主義にナショナリズムで対抗する必要性に迫られたのに対し、安倍はグローバル化時代の国民国家の空洞化を埋めるため、空をきってギターを弾く真似を熱く演じる「エア・ギター」ならぬ「エア・ナショナリズム」に興じていると言うのだ。

 第2次安倍政権は、国民を国家に服従させる「教育勅語」の憲法化をめざす「日本会議」のような復古的国家主義のグループと「アベノミクス」の看板を生み出した新自由主義を強力に推し進める「改革派」が結合した「新右派連合」によって支えられている。「新右派連合」は経済政策を前面に出すことで高い支持率を稼ぎだし、内閣人事局の設置により官僚の人事を官邸が握ることで「官邸独裁」の行政を作り上げた。

 かつて政官業の癒着の中心は族議員と呼ばれる各省庁に影響を持つ有力議員であり、利権の奪い合いが予算バラマキの政治を生み出した。新自由主義改革はこの癒着を打破することを看板にしながら、安倍政権では首相を頂点とする新たな癒着が生まれた。しかも今度は、首相夫妻の「お友達」にピンポイントで行政をねじ曲げて便宜を図る。まさに究極の国家の私物化だ。

 新自由主義は、公的規制を緩和し、資本がやりたい放題に動けることをめざす。その「改革」を強力に進めるために、総理大臣や内閣官房に権力を集中させる「強い国家」論と一体だ。

 政権によるメディア支配も含めかつてない権力集中を利用して、集団的自衛権の行使容認、共謀罪・特定秘密保護法などの治安立法も一挙に進められた。その集大成が明文改憲だ。国家を私物化する安倍政権に改憲させてはならない。

 だが、安保法制(戦争法)反対運動の中で立憲主義を軸とする市民運動は大きな広がりをつくることに成功した。筆者は、この市民運動が市民社会の地殻変動を引き起こす可能性と重要性を強調した。今それが現実となりつつある。  (N)
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