2018年04月20日 1523号

【どくしょ室/日報隠蔽 南スーダンで自衛隊は何を見たのか 布施祐仁+三浦英之著 集英社 本体1700円+税/情報隠蔽国家 青木理著 河出書房新社 本体1600円+税/戦争の最初の犠牲者は真実】

 証拠となる政府文書を隠す、都合のいいデータを捏(ねつ)造する、あげくのはては公文書そのものを偽造する―。安倍政権による情報隠しが次々に明るみに出ている。「戦争の最初の犠牲者は真実」と言われるが、人びとを欺き改憲に突き進む姿勢はまさにそれだ。今回は「情報隠蔽(いんぺい)国家」の実態に迫るタイムリーな書籍2冊を取り上げる。

なぜ隠したのか

 防衛大臣が「存在しない」と説明してきた陸上自衛隊のイラク派兵時の活動報告(日報)が見つかった。その存在に1年前から気づいていたのに、大臣にも報告されず、隠蔽されてきた。そして新たに、航空自衛隊でもイラク日報隠しが発覚した。

 日報問題の発端は、南スーダンPKO(国連平和維持活動)に疑問を抱いたジャーナリスト(布施祐仁)の情報公開請求だった。これをきっかけに組織ぐるみの日報隠蔽工作が発覚。防衛相や事務次官、陸自のトップが引責辞任する事態に発展した。

 だが、布施自身は「自衛隊海外派兵の是非」という本質的な議論に進まないことに不満を感じていたという。そんなとき、朝日新聞特派員として南スーダンを取材してきた三浦英之が協力を申し出た。「政府が隠そうとする不都合な事実を市民に伝えるという一点で、我々はもっと連帯できるのではないか」と。

 『日報隠蔽/南スーダンで自衛隊は何を見たのか』はそのようにして完成した。政府のウソを全力で解き明かそうとしたジャーナリストの「連帯」の記録である。

交戦寸前だった

 三浦が初めて南スーダンに入ったのは2014年4月。前年12月に首都ジュバで政府軍と反政府軍の大規模な戦闘が起きていた。ジュバ市内の自衛隊宿営地を取材した際のことである。当時の派遣部隊長は人払いをした上で三浦にこう告白した。

 「2014年1月、宿営地付近で銃撃戦が起きました。その時、私は隊員の命を守るため、女性隊員も含めたすべての隊員に武器と弾薬を携行させ、『各自あるいは部隊の判断で、正当防衛や緊急避難に該当する場合は撃て』と命令したのです」

 この時点で自衛隊は交戦寸前だったのだ。PKO派遣の条件は崩れており部隊を撤収すべき事態だが、日本政府はこれを無視した。

 そして2016年7月。大規模戦闘が再び発生する。自衛隊と同じエリアに宿営地を置いていたPKO部隊(ルワンダ軍)が南スーダン政府軍の砲撃を受け、兵士が負傷。この攻撃にバングラデシュ軍が応戦した。国連PKO部隊と政府軍が一時、交戦状態に陥っていたのである。陸自部隊が戦闘の当事者になっていてもおかしくなかった。

 緊迫した状況は日報に記録され、日本国内の自衛隊司令部に報告されていた。「トルコビル付近に砲弾落下」というくだりがある。トルコビルとは自衛隊宿営地の真横にある9階建ての建物のことで、7月の戦闘時は反政府派に占拠されていた。後日、現場を訪れた三浦は驚いた。ビルからは宿営地内の様子が丸見えだったのだ(校舎の屋上から校庭を見下ろす感じ)。

 布施が情報公開請求で入手した内部文書によると、大規模戦闘が収まった直後、多くの隊員が不眠や音への恐怖心を訴えていたという。文書はPTSD(心的外傷ストレス障害)による自殺の発生まで警告していた。実際、2名の隊員が帰国後に自殺している。心が壊れるような「殺し殺される事態」に自衛隊は直面していたということだ。

 この現実を安倍政権は覆い隠そうとした。認めれば撤退論が巻き起こり、戦争法にもとづく新任務(駆けつけ警護など)を付与することができなくなるからだ。イラク派兵部隊の日報の存在を否定してきたのも同様の理由であろう。すべては「現地は非戦闘地域」という偽りの説明を取り繕うためだったのだ。

現役自衛官の告発

 青木理著『情報隠蔽国家』では、現役自衛官が実名で隠蔽工作を告発している。

 2015年9月、共産党議員が独自に入手した文書を突きつけ、政府を追及した。自衛隊制服組トップの統合幕僚長が訪米した際、戦争法の成立を前提に、日米共同作戦計画などを米軍幹部と検討していたというのである。

 政府・防衛省は表面上「知らぬ存ぜぬ」を決め込んだが、内部では「存在しない」はずの機密文書の漏洩犯捜しを徹底的に行った。そして統合情報部に勤務していた幹部自衛官を犯人と決めつけた。彼、大貫修平は無実を訴え、著者のインタビューに応じた。

 大貫によると、国会で質問があった翌日、問題の文書は上層部の指示で「省秘」に指定されたという。メディアや市民団体の情報公開請求を見越して先手を打ったのだ。さらに「文書をパソコンから削除しろ」との指示があった。リアルな話である。官僚が勝手に公文書を隠したり、改ざんしたりすることはない。政府の意を受けた「上からの指示」が必ずあるのである。

 ノンフィクション作家の保阪正康は青木との対談で「自分たちの主張が崩れてしまうような記録や資料なら、むしろ存在しない方がいい。そんな右派が近ごろは多すぎます」と嘆く。歴史修正主義がベースにある安倍政権の本質を喝破した指摘と言えよう。

 「民主主義は暗闇の中で死ぬ」と言われる。その先に待っているのは戦争だ。80年前もこうだったのだろう。私たちは今、歴史の岐路に立っているのである。   (M)



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