2018年04月27日 1524号

【役人と昭恵が悪いのか/逃げ切り図る安倍首相/膿を出すなら、お前が辞めろ】

 財務省はバカ、昭恵夫人は軽率。ただし安倍晋三首相に責任はない――政府自民党はこのような印象操作によって、森友疑惑からの逃げ切りを企てている。お笑い草というほかない。安倍首相は「膿(うみ)を出し切って皆様の信頼を取り戻す」と言うが、膿はあなた自身ではないか。出し切る方法はただひとつ。内閣総辞職である。

失敗した印象操作

 国会でウソ答弁連発、公文書を改ざん、森友学園や近畿財務局に口裏合わせを依頼…。偽装工作の相次ぐ発覚に、自民党は「財務省の責任」をやたらと強調し始めた。国有地売却をめぐる不祥事を「すべて官僚がやったこと」にしようというのである。

 4月9日の参院決算委員会では、質問者の西田昌司議員が平謝りする太田充理財局長に「バカか、本当に!」と罵声を浴びせた。「ここまで国家公務員のモラルが落ちているのかと思うとぞっとする。一番の原因は役人のあり方なんです」とも言った。

 西田は国会質問を使って安倍首相の責任を否定する発言を連発してきた。公文書改ざんの一件を「佐川事件」と命名しようとして失敗した恥ずかしい過去もある(3/15参院財政金融委員会)。今回の発言もテレビで取り上げられることを計算に入れた印象操作なのだが、猿芝居がひどすぎて、責任逃れの意図のほうが目立ってしまった。

 財務省はなぜ「トラックを何千台も使ってゴミを撤去したと言ってほしい」と森友側に求めたのか。値引きの積算根拠とされた大量のゴミ自体が存在しなかった事実を隠そうとしたからだ。ゴミの量を見積もっていた国土交通省大阪航空局に対し、財務省近畿財務局は積算量を増やすよう依頼していた。8億円の値引きが前提にあり、数字合わせをしたのである。

 一学校法人の小学校開設に際し、国がこれほど手厚い支援策をとったのはどうしてなのか。安倍首相や彼に連なる右派勢力が森友学園の軍国主義教育を支援していた――理由はそれしか考えられない。

佐川に「総理の指令」

 与党からも批判を浴びている佐川宣寿前理財局長の国会答弁にしても、すべてが彼の一存で行われたわけではない。文藝春秋5月号の掲載記事によると、昨年の国会で首相秘書官の一人が佐川局長に歩み寄り、1枚のメモを手渡したという。そこにはこう書かれていた。

 「もっと強気で行け。PMより」。PMとはプライムミニスター(首相)、すなわち安倍晋三を指す官僚たちの略語である。野党側の追及にしらを切り通した佐川答弁は首相自らの指令によるものだったのだ。これは佐川に限った話ではない。関係省庁の幹部に対して「もっとはっきり否定せよ」という総理のメモがしばしば渡されたという(週刊ポスト3月2日号)。

 首相の期待に応えた佐川は評価され、後に国税庁長官に引き上げられた。逆に、格安売却の経緯についてしどろもどろの答弁を繰り返した国土交通省の航空局長は、官邸の不興を買って半年後に退官を余儀なくされた。絶対服従のイエスマンだけが出世するアベ政治。そりゃ、忖度(そんたく)が横行するわけだ。

むしろ「晋三案件」

 「不都合な事実」の相次ぐ発覚で窮地に立たされた安倍政権は防衛ラインをどんどん下げている。最近では安倍昭恵夫人に批判的な発言まで口にし始めた。前述の西田議員の国会質問がそうである。麻生太郎財務相に至っては「悪いのは昭恵だろう!」と言い放ったという。

 考えの足りない夫人が政権の足を引っ張った。夫(安倍首相)は被害者だ――こうした見方にノンフィクション作家の石井妙子は異を唱える。昭恵は「純粋な皇国史観の持ち主」であり、その行動原理はすべて「夫のため」。森友学園が設立しようとしていた小学校の名誉校長を引き受けたのは、夫の考えを教育で実践している学園を応援したいという思いがあったからだ、と(文藝春秋5月号)。

 園児に教育勅語を唱和させる森友流の教育に感涙した昭恵は「夫に伝えます」と約束していた。安倍首相が何も知らなかったはずがない。大体、首相夫人のお気に入り案件だからといって、官僚が自動的に実現に奔走したりはしない。脱原発や大麻合法化はスルーされている。

 森友学園の極右小学校計画に安倍首相は間違いなく賛同していた。「昭恵案件」である以上に「晋三案件」だったのだ。それゆえ、関係省庁は無茶な方法を使い、国有地を破格の安値で学校用地として提供したのである。

 加計学園の獣医学部設立をめぐる問題では「首相案件」であることを示す公文書や証言が次々に明るみに出ている。森友の件も国家私物化の構図は同じだ。実際、近畿財務局の内部では森友学園との土地取引を「安倍事案」と呼んでいたという。

 安倍首相の支持者である極右勢力の拡大を、行政を歪め手助けした。これが森友疑惑の本質である。官僚や首相夫人だけが悪いのではない。主犯は晋三、安倍首相その人である。       (M)



 
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