2018年04月27日 1524号

【福島原発刑事訴訟第5・6回公判/対策見送りに力抜けた/東電津波対策責任者が証言】

 東京電力の旧経営陣3人が業務上過失致死傷罪で強制起訴された福島原発刑事訴訟の第5回公判が4月10日、第6回公判が11日、東京地裁であった。東電本店の土木部門で津波対策を担当していた社員が出廷し、証言した。

 10日の公判後、記者会見した被害者代理人の海渡雄一弁護士は「この裁判の最重要の証人であり、その中でも最重要の部分だった」と指摘。ハイライトの一つとして、福島沖でも大津波地震が起き得ると予測した国の地震調査研究推進本部の「長期評価」(02年公表)について、被告側が「信頼性に疑問がある」としているのに対し、証人が「確率論的に対策が必要とされる数値」「専門家アンケートで支持が優勢」「東通原発の新設許可申請で採用」など詳しく理由を示して「(長期評価を津波対策に)採り入れるべきだと考えていた」と述べたことを挙げた。

 長期評価に基づく最大津波高15・7bの試算を前提に、証人は防潮堤の設置などの対策を検討し始める。ところが、08年7月の社内会議で被告の武藤栄元副社長は対策見送りを指示。証人は「対策を進める方向だと思っていたのに予想外の結論で、力が抜けた。その後の会議のことは何も覚えていない」という。海渡弁護士は「証人は入廷の際、傍聴席に向かい深々と礼をした。福島の人たちを前に、『あの時もっとうまく上層部を説得できていたら』という思いがあったのかもしれない」と法廷での様子を伝えた。

 11日も証人は、08年9月に「津波対策は不可避」と記した社内文書を作成したこと、09年6月頃には津波対策ワーキンググループの設置を提案したが上層部に拒否されことなどを証言。「事故が起きないようにする手段はあったのに、それができなかったことが非常にはっきりした」。海渡弁護士は2日間の審理をこうまとめた。
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