2018年05月04日・11日 1525号

【「働き方」法案のまやかし/若者の長時間・過密労働に拍車/これは過労死容認法案だ】

 安倍政権・自民党は、「働き方改革」一括法案の早期法案審議入りを狙い、4月18、20日の厚生労働委員会を野党6党欠席のまま強行した。過労死を容認・合法化する「働かせ方大改悪」は断じて許してはならない。

 近年、青年労働者が、長時間労働やパワハラで追い詰められ「過労死」「過労自殺」に至る事件が続発している。

 一昨年のクリスマスに自殺し、過労死認定された大手広告代理店電通の高橋まつりさんは24歳。会社は昨年10月に有罪判決を受けた。新国立競技場の建設に従事し、昨年3月に自殺し、労働災害と認定された大成建設の下請け会社の男性社員は23歳。急死して労働災害と認定されたあと3年間公表されなかったことに遺族が批判の声を上げたNHKの女性記者は31歳だ。

 警察庁の2016年度自殺統計によると日本全体で自殺者は約2万2千人。その中で勤務問題が原因・動機の一部とされる自殺者数は1978人に上る。

 昨年10月に厚生労働省は17年度「過労死等防止対策白書」を発表した。「白書」は、14年に制定された「過労死等防止対策推進法」に基づき、一昨年から作成されており、今回は2度目である。

 状況はますます深刻になってきている。脳・心臓疾患による労働災害補償は、16年度の請求件数は825件で前年度より30件増え、認定も前年度を9件上回る260件(うち死亡は107人)。

 精神障害はさらに深刻で、請求件数は前年度を71件も上回る1586件、認定も前年度より26件増の498件。請求、認定ともに過去最高を更新している。自殺者(未遂を含む)は84人、認定件数の23%が29歳以下となっている。警察庁の自殺統計から考えると、もっと多くの労働者が過労自殺していることは確実だ。

 過労死の原因が異常な長時間労働にあることは明らかだ。日本は、労使協定を結べば、1日8時間・週40時間の制限を超えて上限なしに残業させることができる。ヨーロッパでは、EU(欧州連合)指令で、時間外を含め労働時間は週48時間を上限とし、退社後、翌日の出勤までに11時間の休憩時間を設ける「勤務間インターバル制度」を設定し、労働者を保護している。

労基法の規制外す

 安倍政権が今国会に提出した「働き方改革一括法案」では、残業の上限時間は、休日労働を含んで2〜6か月平均で80時間、ひと月で100時間未満。これは厚労省が定めている過労死の認定基準を残業の上限に転用したもので、「過労死ラインまで働かせてもOK」というお墨付きを企業に与えるものだ。

 さらに問題は、「高度プロフェッショナル(高プロ)制度」の新設である。労働者を、労働基準法の労働時間規制の対象から外し、残業代なしで26日も連続勤務(休み時間もなし)させることができる。企業の労働時間管理責任をなくし過労死を増大させるとんでもない法案だ。

 実質何の規制にもならない「残業の上限時間」だが、それさえも5年間適用除外されているのが、建設業、医師、自動車運転業務である。「白書」によると業種別年間労働時間は建設業がワースト1位で2056時間、運輸・郵便業が2位で2054時間だ。

 16年度に過労死や過労自殺(未遂を含む)で労災認定された人は、業種別では運輸・郵便業の41人が最も多く、全体の2割強を占めた。製造業の35人、建設業の23人と続く。

 医師の労働も過酷だ。20代の常勤勤務医の勤務時間は、週平均55時間程度。これに当直や休日・診療時間外に緊急時に備える「オンコール」の待機時間が12時間以上加わる。時間外労働は月100時間を優に超える。医師の6割が過労死認定水準で働かされている。こうした長時間労働の職種こそ上限規制が必要なのだ。

 安倍はグローバル資本の要求に応え、建設業、自動車運転、医師に関して過労死ラインをはるかに超えて働かせようとしている。「働き方改革」法とは過労死容認法なのだ。

ドイツは週28時間

 ドイツでは今春、金属労組(IGメタル)が6%の賃上げとともに、子育てや家族の介護の時間が必要な労働者に2年間、労働時間を週35時間から28時間に短縮することを要求。24時間ストライキを実施し、4・3%の賃上げと時短要求通りの協定を獲得した。

 日本では1970年代後半から労働運動が押さえ込まれ、人員削減と生産技術ME(マイクロエレクトロニクス)化を背景に、時間外・休日労働が多くなり、労働時間が増勢に転じる。過重労働に起因する健康障害が多発するようになった。このころから過労死の症例が報告され、その後過労死は常態化してきた。

 連合は、労働組合の看板を掲げる以上、過労死ラインの労働時間容認を撤回しなければならない。「労働省告示第154号」(1998年)の残業時間限度、週15時間、月45時間、年間360時間を実際の上限とし、これを超えて働かせた会社に罰則を課すことを要求しよう。でたらめな安倍「働き方改革」一括法案を政権もろとも葬り去ろう。

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