2018年05月18日 1526号

【奨学金全国会議が設立5周年集会/今こそ返還・貸付制度の改善を/誰でもいつでも大学に行けるよう】

 非正規雇用の拡大と若者の貧困化が進む中、奨学金返済に苦しむ人たちを支援し、制度改革を実現しようと活動してきた「奨学金問題対策全国会議」が4月21日都内で、設立5周年集会を開いた。

「奨学金という呪い」

 「高等教育の漸進的無償化を―大人の学びと雇用のために」と題して矢野眞和(まさかず)東京工業大学名誉教授(社会工学・教育経済学)が記念講演。「世帯所得によって大学進学率に格差がある」「貯蓄できなければ子どもを進学させられない」「大学進学機会の不平等が結果の不平等を拡大する」ことをデータで示し、「“優良児”が大学に行かないのは国家の損失(=普通の子の不進学は損失ではない)とする育英主義的大学観、授業料は親が負担するのは当たり前とする“親負担主義”から脱却し、18歳だけではなく誰でもいつでも『大人の学び』『“社会人”力の向上』のために大学に行けるようにする。無償化からの大学改革が必要だ」と提唱した。

 「奨学金という呪い―就職・結婚・出産」のテーマで対談したのは、全国会議共同代表の大内裕和中京大学教授と作家の雨宮処凛(かりん)さん。大内さんが「高校3年で今まで目にしたことない額を借り、大学では卒業後の返済を心配して必要以上にアルバイト。就職口は限定され、結婚するか否か、出産するか否か、さらには子育て費用まで奨学金のために自由にならない。何十年にもわたって呪われる」と指摘すれば、雨宮さんは「非正規雇用の7割が女性で、その平均年収は144万円ぐらい。そこに奨学金の返済が入ったらどうすればいいのか。最近は『お前の貧困や苦しみなんてたいしたことない』と言う。正社員の長時間労働より非正規の方が大変だ、非正規より路上生活者の方が大変だ、路上生活者よりシリアの難民の方が大変だ、という形で黙らせていく“犠牲の累進性”だ」と応じる。

学生ユニオンも報告

 “呪い”から、“犠牲の累進性”から、どうやって抜け出すのか。関西圏の大学生を中心に2015年に結成された「関西学生アルバイトユニオン」は、学生バイトをめぐる諸問題について学生同士で気軽に相談し、相談者と一緒に解決を図ることをめざしている。メンバーの堀詩織さんと石川恵理さんが報告した。

 「アンケートの自由記入欄に『シフトを勝手に変えられた』『割った皿の代金が給与から引かれた』『塾の授業前後の30分が無給』『辞めさせてくれない』などの“叫び”が。“ブラック”と言われる働き方が広がるほど、学生だけでなく働く人全体がしんどくなる。ユニオンを立ち上げ、団体交渉で解決し、『おかしいことはおかしいと言えば変えられる』経験ができたが、学生が声をあげることは難しい。一人ひとりに声をかけ続けるしかない」(堀さん)

 「初めて(大阪市)西成に行き、貧困の実態がこんなそばにあるんだと感じた。奨学金について聞くと『今は返してないから実感がない』という友達が多い。労働は学生にとっても将来かかわっていかなければならない分野。決して他人事(ひとごと)ではない。学生だからできることを考えていきたい」(石川さん)

給付型奨学金の拡大へ

 国は昨年度から、給付型奨学金の導入など制度改革を始めた。しかし、新制度は新たな利用者が対象で、現に返済に苦しむ多くの人を救済できない。給付型も規模がきわめて小さい。集会は最後に、全国会議事務局長の岩重佳治弁護士から「今こそ返還・貸付制度の改善を」との提言を発表。(1)給付型奨学金の対象を広く低所得者に支援を行えるよう拡大する(2)貸与型奨学金について、返還猶予の利用可能期間の延長、延滞金の引き下げ、保証人に無理な返済を強いない、などの制度改善を行う(3)入学時の費用の支援を強化する―ことを求めた。



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