2018年05月18日 1526号

【自衛官が野党議員を口撃/安倍政権を批判する者は「国民の敵」!?/アベ様の軍隊化する自衛隊】

 「お前は国民の敵だ!」。防衛省統合幕僚監部の3等空佐が野党議員に罵声を浴びせた。現職の幹部自衛官が「政府・自衛隊が進めようとしている方向とは違う」と因縁をつけ、国会議員を恫喝したのである。この一件を自衛官個人の「不用意な私的発言」で片づけるわけにはいかない。暴言の背景には、安倍政権の私兵化が進む自衛隊の現状がある。

路上で“実力行使”

 4月16日午後8時40分頃。国会議事堂近くの路上で、小西洋之参院議員(当時民進党)が男から「小西か?」と声を掛けられた。議員が認めたところ、男は「俺は自衛官なんだよ。お前は国民の敵だ」などと絡んできた。執拗な罵倒は約20分間に及び、警官が止めに入る騒ぎとなった。

 この自衛官は2005年に防衛大学校を卒業し、現在は統合幕僚監部に所属する3等空佐である。防衛省の調査に対し、「こんな活動しかできないなんてバカなのか」「日本の国益を損なう」などと述べたことは認めたが、「国民の敵」発言については否定しているという。

 安倍応援団のネトウヨ連中は「そら見ろ、小西は嘘つきだ」と騒いでいるが、見当違いもはなはだしい。まず、防衛省は小西議員からの聞き取りを一切行っていない。現場で対応した警察官にも直接は聞いていない。加害者である自衛官の言い分と防衛省の見解を一方的にたれ流しているだけなのだ。

 そもそも、軍事組織を指揮する立場にある幹部自衛官が、国民の代表である国会議員を面罵(めんば)すること自体が異常である。しかも、その動機は敵意によるものだった。彼は小西議員について「政府・自衛隊が進めようとしている方向とは違う方向での対応が多いとのイメージ」でとらえていたと供述している。

 小西議員は安保法制や自衛隊の日報隠蔽(いんぺい)問題などで安倍政権を厳しく追及してきた。野党議員として当然の政治活動だが、この3佐は「政府・自衛隊の足を引っ張り国益を損なう」との不満を抱き、議員を恫喝するという実力行使に及んだのである。

気分は安倍の私兵

 憲法15条は「すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」と定めている。自衛官が政権擁護の立場から批判的な者を脅すなど言語道断だ。憲法違反のの行為に対し「訓戒」という防衛省の処分は軽すぎる。

 もちろん、当該自衛官を厳罰に処せばよいという問題ではない。「安倍政権に逆らう者は敵だ」という意識は彼一人のものではなく、今や自衛隊の組織全体に浸透しているからである。

 安倍晋三首相の「自衛隊明記改憲」提案を「非常にありがたい」と述べて物議を醸した河野克俊・統合幕僚長は、極右論壇誌『WiLL』を発行するワック・マガジンズの鈴木隆一社長とは昵懇の間柄にある。トップがヘイト本の発行人と親しいせいか、自衛隊の各種機関は近年、ネトウヨ文化人を講師として頻繁に招くようになった。日本のアジア侵略を正当化する歴史観、つまり安倍首相と同じ歴史修正主義を組織ぐるみで養成しているのである。

 歴史修正主義者の自衛隊幹部と言えば、「日本は侵略国家ではない」と主張する論文を発表して航空幕僚長を更迭された田母神(たもがみ)俊雄が有名である。田母神は辞表提出を迫られた際、首相経験者の名前を出して「私の考えは理解されている」と居直ったという。その一人が安倍晋三だ(もう一人は森喜朗)。

 安倍首相は自衛隊を「我が軍」と呼んで問題になったが、自衛隊の側も「安倍の兵隊」意識を持っているということであろう。

危険な弾圧装置

 今回の「国民の敵」暴言を多くのメディアは「文民統制からの逸脱だ」(4/19朝日社説)と批判した。批判は当然だが、「政治が軍事に優越する原則からの逸脱」(同)という指摘は一般的すぎる。主権者国民を無視して暴走しているのは安倍政権であり、その空気が自衛隊にも伝播しているとみるべきだ。

 本来なら、政治家たる者は思想信条とは関係なく、軍事組織の統制に細心の注意を払わねばならないはずだが、今の安倍自民党にそうした意識はない。軍事最優先の振る舞いをむしろ奨励している。

 たとえば、自民党安全保障調査会などでの会合では、自衛隊の日報が情報公開の対象となることへの不満が相次いだという(5/1産経)。「軍事情報の保秘は世界の常識」「意図的に請求をくり返し、防衛省の機能をパンクさせる『情報公開請求テロ』の可能性もある」というのだ。

 情報公開による民主的な検証・統制など我が軍には必要ない――そんな発想の連中が「自衛隊の名誉を憲法に位置づける」(田久保忠衛・日本会議会長)と称して、改憲策動を進めているのである。

 安倍首相は昨年の都議会選挙の応援演説で、自分を批判する市民を指して「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と言い放った。安倍政権の軍事部門と化した自衛隊が「こんな人たち=国民の敵」とみなし、弾圧の銃口を向けることは十分ありうる。それが軍隊という国家の暴力装置の本質なのだ。   (M)



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