2018年05月25日 1527号

【夫の死 うやむやにさせない/核燃料サイクルの闇こじ開ける/旧動燃相手に新訴訟/もんじゅ西村事件】

 高速増殖炉もんじゅの廃炉作業が近く始まる。だが、事業主体=動力炉・核燃料開発事業団(動燃、現・日本原子力研究開発機構[以下、機構])の職員だった夫の死の真相をうやむやにするわけにいかない。妻・西村トシ子さんは機構と当時の総務担当・大畑宏之理事を相手どって新たな裁判を起こした。

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 動燃では95年12月、もんじゅナトリウム漏れの重大事故に続き、現場を撮影したビデオの隠ぺいが発覚。総務部次長として社内調査を命じられた西村成生(しげお)さんは翌1月、記者会見出席後、ホテル敷地で遺体となって発見される。

 「8階から飛び降り自殺」とされたが、遺体には30bの高さから地面に激突した際に発生する破滅的な損傷が全くなかった。葬儀は梶山静六官房長官まで参列し、さながら「国葬」。成生さんは「痛ましい犠牲者」に仕立てられ、動燃そのものの責任を追及する世論は一挙に沈静化した。

 本当に自殺なのか。疑念をぬぐえないトシ子さんは、司法の場で真相究明をめざす。

 04年、動燃が改組した核燃料サイクル開発機構に対し安全配慮義務違反を問う民事裁判を起こしたが、12年1月最高裁で敗訴が確定。15年には、初動捜査を行った警視庁中央警察署長らを相手に衣服など遺品の返還を求め提訴したが、17年3月東京地裁が、同9月東京高裁が、請求を棄却した。

 東京高裁判決は、一方、遺品の一部が遺体の第一発見者である大畑動燃理事の手に渡っていた事実を認定。トシ子さんはここに注目した。「上告しても時間をとるだけ。動燃を相手にやろう、と切り替えた。私がそう言うと、みんな『それがいい』と盛り上がった。動燃に迫らないと。第一発見者はいろんなことを知っているはず。大畑さんは全部を仕切っていた」

 こうして、大畑理事と機構に遺品引き渡しを求める訴訟が始まる。4月19日、東京地裁。第1回口頭弁論でトシ子さんは「記者会見から遺体を警察が撮影した8時間後まで、納得できる事実は一切明かされていない。西村成生を生きたまま還してください。できないなら、遺品を還してください」と陳述した。

このまま終わらない

 一つ、出鼻をくじかれることが。大畑理事が訴状到達の数日後、死去したのだ。裁判は相続人に引き継がれる。大口昭彦弁護士は「闘争の大きな制約になるが、嘆いても仕方ない。ハンディを克服して闘っていきたい」と話す。

 トシ子さんがよく引き合いに出す小説がある。官庁汚職と官僚の不審死をテーマにした松本清張『中央流沙』。登場人物がつぶやく。「せっかく燃え上がりかけた汚職事件の火が、倉橋課長補佐の死でいっぺんに消えてしまった。…急死は関係者には救世主だった」。“汚職事件”を“ナトリウム漏れ・ビデオ隠し”に、“倉橋課長補佐”を“西村総務部次長”に置き換えれば、もんじゅ西村事件の本質をずばり言い当てている。

 もんじゅは廃炉になるが、高速炉開発計画は続行する。西村さんの裁判は日本の原子力開発、核燃料サイクル政策の闇をこじ開ける闘いだ。

 「傍聴席は満席。チラシをまいていても『絶対これおかしいよね』とみなさん分かってくれる。このまま終わらない。次の段階、刑事告訴まで進めたい。裁判に注目し、経過に関心を持ってほしい」。トシ子さんは呼びかける。

 次回は7月12日13時15分、東京地裁611号法廷。

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