2018年06月08日 1529号

【未来への責任(250) 市民の思いが支える南北和解】

 昨秋、ノー!ハプサ(NO!合祀)訴訟の打ち合わせで、韓国を訪問する機会があり、太平洋戦争被害者補償推進協議会の会員の皆さんと一緒に、38度線の軍事境界線沿いの「臨津閣(イムジンカク)」を訪れた。

 「臨津閣」はソウルから車で約2時間のところにあり、十分日帰りできる距離だ。首都ソウルが軍事境界線のすぐ近くにあることに改めて驚いた。

 車は途中から「臨津江(イムジンガン)」に沿った道をひた走る。日本では『イムジン河』という歌でご存じの方も多いだろう。走っていくうちに川岸に鉄条網と監視小屋が続くようになり、ここが軍事境界線であることが分かる。川の向こう岸は北朝鮮という場所であるにも関わらず、特に緊迫感があるというわけではなく、ひっきりなしに車が通る。

 そうこうしているうちに、「臨津閣」に着いたが、駐車場は満杯で道路に車を止めざるを得ないような盛況ぶりだ。そう、「臨津閣」は観光地だったのだ。「臨津閣」には展望台とお土産屋さんもあり、近くには脱北者の記念館も建設中で、その周辺をすでに完成していたミニSLがお客さんを乗せて走っていた。それだけではない。「平和ランド」という名前の遊園地があり、ちょうど「にんじん祭り」(朝鮮人参の収穫祭?)の開催中のようで人でごった返していた。軍事境界線に遊園地を作ってしまう。その発想には驚かされる。

 川には朝鮮戦争までは南北をつなぐ鉄道の橋が架かっていたが、戦争で爆破され、その橋脚が展望台として整備されていた。そこには、非武装地帯に放置されていた無数の銃痕のある機関車が展示され、戦争のすさまじさを物語っていた。ふと、横を見ると、新しい鉄道の橋が架かっている。そう、金大中(キムデジュン)大統領時代の「太陽政策」で、新たに南北をつなぐ鉄道が建設されていたのだ。ここは、南北分断の象徴でもあり、いつでも南北がつながることができる希望の象徴でもあるのかもしれない。

 5月22日のノー!ハプサ第2次訴訟第15回口頭弁論の総括集会でも、4月27日の南北首脳会談が話題になった。太平洋戦争被害者補償推進協議会共同代表の李煕子(イヒジャ)さんは「米朝首脳会談がうまくいけば、アジアにもいろんな変化が出てきて新しい時代が切り開かれてくると思う。チャンスがいつも来るものではない。すぐ統一まではできないとは思うが、今回ぜひ生かしてほしい」と語る。通訳として参加した民族問題研究所の金英丸(キムヨンファン)さんによれば、当日韓国では朝から生中継され、金正恩(キムジョンウン)が軍事境界線を越えたシーンは「衝撃的な場面」だったとのこと。報道を通じて「普通の人間だ」ということが強く印象付けられたと言う。金さんは「これからは大きく動く。急激な変化に対して、保守勢力は反発しているが、大きな流れは後戻りできない」と強調した。南北首脳会談が市民の平和への強い思いに支えられているということを私たちは理解しなければならないと思う。

(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会 山本直好)

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