2018年06月15日 1530号

【ミリタリー・ウォッチング 北東アジアの平和構築へ 妨害勢力の歴史偽証を暴く】

 史上初の米朝首脳会談(6/12)が「中止」「予定通り」と目まぐるしく動いた。だが、朝鮮半島から北東アジアの平和構築へと向かうこの歴史的流れが弱まることはない。圧倒的な国際世論が推進力だからだ。

 一方で緊張緩和を望まぬ勢力の「巻き返し」の動きも執拗に続いている。狙いは、米朝首脳会談をトランプと金正恩による「(朝鮮側の一方的な)非核化と(金正恩体制を保障するための)経済援助」の取り引きに矮小(わいしょう)化し、「米朝双方による軍縮から関係国の軍縮」を今後の交渉の核心からそらすことだ。そのために、歴史を偽り、デマゴギーを振りまく。

デマ振りまく安倍

 2017年9月、国連総会で安倍首相は「対話とは、北朝鮮にとって、我々を欺き、時間を稼ぐため、むしろ最良の手段だった」と言い放った。安倍流歴史ねつ造、デマゴギーの典型だ。

 安倍首相の言う、朝鮮側が時間稼ぎに利用した歴史的事実とは米朝枠組み合意(1994年)と6か国協議合意(2005年)の経緯を指す。だが、この2回の合意の破たんに至る経緯と責任が、一方的に朝鮮政府にあるというのはもはや国際的常識ではない。むしろ、米朝合意を踏みにじり、相互信頼醸成と和解へのプロセスを崩壊させたのは米国の側にあったという議論は、米国内でも広範に行われてきたものである。

 米朝枠組み合意によるKEDO(朝鮮半島エネルギー開発機構)プロセスにおいては、共和党の抵抗で重油提供を滞らさせたことに加え、ブッシュ政権登場(2000年)やネオコン(好戦的新保守主義)勢力の台頭によって、最終的に朝鮮を悪の枢軸≠ニして非難。「相互に敵意を持たない」という共同コミュニケを反故(ほご)にし、崩壊させた。また、6か国協議合意でも、朝鮮の資金を凍結するための金融制裁を強行するなど、「約束対約束、行動対行動」の原則に反する対応で合意を破たんさせた。

制裁決議さえ自ら違反

 さらに、安倍演説は、自らが振りかざす国連制裁決議にすら違反している。

 これまでの国連制裁決議は、朝鮮の核・ミサイル開発に制裁を加える一方で、例外なく、関係国に平和的解決の義務を課した。軍事を含む圧力をも主張する安倍首相の言説は「…状況を平和的、外交的、及び政治的に解決するという誓約を表明する…」(決議2397、2017年)にも明らかに違反している。

 また、制裁決議が公平性を保つために当初は必ず確認されていた「NPT(核不拡散条約)加盟国すべてがNPTの下における義務を順守し続ける義務」があることを無視している事実がある。米国など核兵器保有国にとってNPTの重要な義務とは、核兵器を廃絶するという第6条義務だ。これらの義務を全く果たさない米国と一体化し、核兵器禁止条約に反対、「先制核不使用宣言」にすら反対したことは、NPTと国連憲章違反に他ならない。

 今、朝鮮半島をめぐるこうした交渉の歴史を正確に知り、学ぶことで、デマゴギーによる妨害をはねのけ、歴史の好機を確実に前へ進めなければならない。南北「4・27板門店宣言」をリードした文在寅(ムンジェイン)政権、そして同政権をろうそく革命≠ナつくり出した韓国民衆の存在がこの前進をより確かにしている。

豆多 敏紀
平和と生活をむすぶ会


資料

◆米朝枠組み合意(要旨)

 米国側は朝鮮へ軽水炉の提供・石油供給を行い、経済制裁を解除する。

 朝鮮は朝鮮半島非核化共同宣言を履行し、NPT(核不拡散条約)に残留し、IAEA(国際原子力機関)査察再開を受け入れる。

 双方は政治・経済関係正常化への行動をとる。

◆6か国協議合意(要旨)

 朝鮮は核関連施設の停止および封印を行いIAEAの査察を受ける。

 他の5か国は重油供給など経済・人道支援を行う。米・朝、日・朝は国交正常化に向け協議を開始する。

 米国はテロ支援国家指定の解除・経済制裁終了への作業を進める。

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