2018年06月22日 1531号

【イラクと日本 失敗したイラク国民議会選挙 市民は権力と私兵勢力を拒否】

 5月12日、イラク国民議会選挙(定数329)が実施された。「対米強硬派」とされるサドル師派が54議席を占め、アバディ首相の勢力は第3党の42議席などと報道されている。

 この選挙は全く国民合意のない中で実施された。開票当初の速報でも投票率が45%に満たないとされ、後に選挙管理委員会は32%以下であると認めた。

 イラク全土の投票所はシーア派やスンニ派、クルド民族などの宗派主義、民族主義の私兵が支配している状態にある。各宗派や民族勢力の対立で全国で千か所以上の投票所が破壊された。とてもまともな選挙とは言えない。市民の権利擁護とイラク社会の変革をめざすイラク労働者共産党は選挙に参加しなかった。

汚職と戦争で権利侵害

 さらに投票から3週間もたった6月6日、「深刻な違反があった」(アバディ首相)として全投票(約1100万票とされる)を手作業で再集計することを国民議会が議決する始末。国際NGOトランスペアレンシー・インターナショナル(本部ベルリン)によれば、イラク政府の「清潔度」は世界180か国中169位。汚職政府によるでたらめ選挙だった。

 選挙は有権者の3分の2が投票を拒否した「失敗選挙」である。これほど低い投票率は「汚職に染まり、犯罪と戦争によって大部分の基本的な自由と権利を侵害しながら社会の公金を略奪しているこの権力と私兵勢力を明確に拒否するメッセージ」(イラク労働者共産党)なのだ。
 にもかかわらず、日本の河野外務大臣は選挙の翌日、「第4回国民議会選挙がおおむね平穏に執り行われたことを歓迎します」と談話を発表した。

日本政府の「選挙歓迎」

 ちょうどこの選挙の時期、日本のODA(政府開発援助)を利用してトヨタ商事がイラク最大のウム・カスル港の港湾作業船建造契約を受注し、三菱商事も40年ぶりにバスラの港湾改修工事を受注している。日本政府は、イラク市民の窮状などそっちのけで、グローバル資本の利益になる政治体制を歓迎しているのだ。

 6月8日、首都バグダッドのサウラ・シティ(市内北東部の貧困地区)のモスクで爆弾テロが起き、90人以上の子どもや若者、女性、老人が殺害された。総選挙という茶番劇を通じて、アバディ政権は市民の安全と命を全く守らない存在であることが改めて明らかになった。

 イラク労働者共産党は、対市民攻撃を続ける宗派主義や民族主義の私兵を解体し地域から追放しようと呼びかけている。アバディ政権に対し、家を失った人たちが安全に帰還するための適切な保障の提供を求めると共に、残酷な対市民テロ攻撃の共謀者らとそれを容認した政府当局者に責任を取らせて公開の裁判にかけることを要求している。

 命と生活を守るために闘うイラク市民に連帯したい。

(イラク平和テレビ局in Japan代表・森文洋)



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