2018年06月29日 1532号

【最高裁「GPS捜査違法」判決どう生かす/亀石倫子・主任弁護人が語る/超監視社会つくらせない】

 「裁判所の令状なしのGPS(衛星利用測位システム)捜査は、憲法が保障する個人のプライバシーなどの重要な利益を侵害し、違法」。昨年3月の判決で、最高裁はこんな画期的判断を示した。GPS捜査を「個人の行動の継続的・網羅的な把握を必然的に伴う」「公権力による私的領域への侵入」と断じ、憲法の原則に即した新たな立法措置を講じるよう促している。

 この裁判の主任弁護人を務めた亀石倫子(みちこ)弁護士が6月6日の院内集会で、弁護活動をふり返りながら判決の意義について語った。

 2013年12月、大阪・東警察署で店舗荒らし事件の被疑者と接見した際、「僕の車にGPSが取り付けられていた。行く先々に“なにわ”ナンバーの同じ車がいて、どうして僕たちの居場所が分かるのか不思議だった。いったい警察ってこんなことまでしていいんですか」と聞かれたことがきっかけだった。

 大阪府警は個人名義でセコムからレンタルしたGPS端末を被疑者らの車両19台にひそかに取り付け、位置情報を取得して監視・追跡していた。

 警察庁が06年に発した通達は、GPS端末取り付けに際し「犯罪を構成するような行為」があってはならないと規定する。しかし、ネジを外してバイクの部品内部奥深くに取り付けたり、端末のバッテリー交換のため私有地に無断で立ち入ったり、といった犯罪行為が平然と行われた。

 「06年通達の最大の問題は『捜査書類にGPSの存在を記載しない』『事件広報の際、GPSを使って捜査したことを公にしない』としたこと。徹底してGPS捜査を秘密にしている」と亀石弁護士は指摘する。「どんなに証拠開示請求してもGPS捜査のGの字も出てこなかった」

国民監視を逆に監視する

 秘密保持の壁を崩そうと、若手弁護士6人が精力的に活動。セコムと契約してGPS端末を入手し、車に取り付けてもう1台の車で追跡する実験を試みる。GPSで正確な位置情報が分かること、人の行動はその人の内面を映し出すプライバシー性の高い情報であることを立証した。最高裁の弁論では、「権力が国民を監視する社会か、個人が強くあるためのプライバシーを大切にする社会か、1つの分岐点になる」と訴えた。

 最高裁判決は現行法下でのGPS捜査を不可能にした。「住居・書類・所持品について侵入・捜索・押収を受けない権利」を定めた憲法35条の保障対象には、これらに準じる「私的領域」に侵入されない権利が含まれることも明示された。スマートフォンのGPS位置情報を捜査機関が取得することに対しても厳重な制約を課す必要がある。

 「今後、尾行や張り込み、監視カメラだけでなく、GPSのような新しい技術を使った監視手法がとられていくだろう。プライバシーは個人がアイデンティティをつくり上げていくために保障されている。国家による国民監視を逆に国民の側から監視する仕組みが大事だ」。亀石弁護士はそう締めくくり、「やましいことはないから監視されてもかまわない、という人も多い。監視されることの怖さを分かりやすく伝える工夫をしていかなければ」と付け加えた。

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