2018年07月06日 1533号

【山形住宅明け渡し訴訟第4回口頭弁論/国・福島県は避難者の生存権を守れ/貸主は誰か―“原告”の当事者性を追及】

 区域外避難者の住宅提供打ち切りから1年2か月余。行き場のない避難者に追い打ちをかける住宅明け渡し訴訟の第4回口頭弁論が6月19日、山形地裁であった。地元の支援者やひだんれん(原発事故被害者団体連絡会)、避難の協同センターなどから傍聴席の倍の53人がかけつけた。抽選に外れた人は地裁前で「避難者を被告にするな」「国と福島県は原発事故避難者の生存権を守れ」などのプラカードを掲げ、市民にアピールした。

 昨年9月、山形県米沢市の雇用促進住宅に住む避難者8家族を被告として、国の外郭団体「高齢・障害・求職者雇用支援機構」が明け渡しと家賃相当額の支払いを求め提訴した(後から、住宅管理を受託した「ファースト信託株式会社」が参加)。しかし、訴訟の当事者性をめぐる論点は今も決着していない。

国連勧告の尊重を

 この日は、4月に替わった裁判長を前に、「そもそも誰が住宅の貸主だったのか」と原告を追及。あわせて国連人権理事会勧告(昨年11月)の尊重を訴えた。

 法廷は、向かって左側に原告側弁護士2人が座り、右側に被告とされた避難当事者と代理人弁護士が十数名陣取る。原告側はひと言も発しない異様な光景だ。

 被告側の井戸謙一弁護士は2012年4月に支援機構と福島県が交わした「応急仮設住宅としての借上げに関わる確認書」を取り上げ、「被災者への直接の貸主は福島県であるはず。応急仮設住宅だが貸主は機構であるとする法律関係の説明は原告側主張からは理解できない」と批判。当事者の一方の福島県が表に出ず、民間業者と避難者を争わせようとする構図を問題にした。

 東京では、都営住宅や国家公務員宿舎に住み続ける区域外避難者が福島県や東京都に「行政財産の一時使用許可申請書」を提出している。しかし、「判断できない。ご意向はわかりました」と許可も不許可も表明しない。責任の所在が不明で、訴える先もわからない。一方的に打ち切っておいて、責任を回避しているのが共通の実態だ。

 海渡雄一弁護士は国連勧告について「日本政府は死刑制度や慰安婦問題などの勧告は拒否したが、原発避難者政策の変更を求める勧告はすべて受け入れた(3月)。帰還政策は年間1ミリシーベルトを基準にすべき、との勧告も受け入れたわけで、政府が約束を履行しないときは裁判所が実効性を確保する責務を負っている」と訴えた。弁護団・支援する会は、勧告を受け入れた以上は訴訟を取り下げるよう原告と福島県を指導せよ、との意見書を政府に提出している。

避難の権利訴える

 裁判後の記者会見・報告集会で、福田健治弁護士は「新しい裁判長は、どういう法的根拠で被災者に住宅を供与していたのかを原告に補充してもらわないと先に進めないという見方をしている」と受けとめ。被告当事者代表の武田徹さんは「提訴からまもなく1年になる。同じ住宅に有償契約をして入居し続けている方とのいざこざは一切ない。国と闘っても勝てっこないとあきらめた方も多いと思うが、私たちは悩みながらも残った。通常の立ち退き訴訟は短期に終わるものだが、立派な弁護団と強力な支援団のおかげでここまでこられた。私たちが頑張ることで、東京など同じような状況にある人たちが『よし、やれる』という気持ちになれば意味があると思う」とあいさつした。

 被告当事者として2人目の意見陳述を行った40代の男性は「原発事故はまだ収まっていない、事故以前の環境に戻っていない、避難の権利があるということを訴えたかった」。山形県内で採れる食材の汚染状況にも触れた。「裁判長には決して他人事ではないということを知ってもらいたかった」

 被告の中には福島に戻った人もいる。立ち退き請求は取り下げられたが、家賃支払いの請求で被告にされたまま。裁判には福島からもかけつけ、被告同士で励ましあう。山形に残る女性は「いろんな事情で帰られた人もいるが、こうやってつながっている。メディアは『分裂』とか印象操作して、残っている者にプレッシャーをかけるかもしれないが、実態は異なる。時が経てば経つほど、弁護士・支援者に恵まれたと思う」と明るく語る。

 次回の口頭弁論は9月18日午後4時と決まった。





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