2018年07月27日 1536号

【政府に追随 稼働を容認 大飯原発控訴審不当判決 司法の独立を自ら放棄】

 名古屋高裁金沢支部は7月4日、関西電力の大飯原発3、4号機の運転差し止めを命じた福井地裁判決(2014年5月21日)を取り消し、住民の請求を棄却する不当判決を言い渡した。

規制委の審査を追認

 判決理由がどういうものかを見よう。

 判決は、「(現在の)法制度を前提とする限り、原子力発電所の運転に伴う本質的・内在的な危険があるからといって、それ自体で人格権を侵害するということはできない」と、原発の運転自体をまず肯定する。そして、「具体的審査基準に適合しているとの判断が原子力規制委員会によってされた場合は、(その)判断に見過ごし難い過誤、欠落があるなど不合理な点があると認められるのでない限り、…危険性は社会通念上無視しうる程度までに管理され、周辺住民等の人格権を侵害する具体的危険性はないものと評価できる」とする。

 そして関電による基準地震動・基準津波は「最新の科学的知見及び手法を踏まえて策定されたものであり、…新規制規準に適合するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点があるとは認められない」から「運転差し止めを求める1審原告らの請求は理由がない」というのである。

元委員長代理の指摘無視

 この裁判では、関電が設定した基準地震動700ガルの妥当性が最大の争点となってきた。関電は700ガルを超える地震が来ることは考えられないと主張しているが、福井地裁判決は10年足らずの間に4つの原発に5回にわたり想定した地震動を超える地震が到来した事実を重視し、大飯原発の地震想定だけが信頼に値するという根拠は見出せないとした。

 そして控訴審では、原子力規制委員会の元委員長代理を務めた島崎邦彦さんが証言台に立ち、基準地震動策定に用いられる入倉・三宅式(注)は、過去の地震データがない大飯原発で用いると基準地震動の大幅な過小評価になると指摘した。



 住民側はさらに事実を解明するために複数の科学者証人を申請したが、裁判所は昨年5月に規制委員会が大飯原発を安全審査合格とするや、新たな証人の採用を「必要性なし」と拒否し、強引に審理を終結させた。

 判決は島崎証人の指摘を全く顧みることなく、田中俊一前委員長自身が再三「安全を保証するものではない」と語っていた新規制基準に基づく審査を根拠に「具体的危険性はない」とした。

 この判決を受けて原告団と弁護団は、「福島の被害に背を向け、『見ざる、聞かざる、言わざる』の態度で行政追随を決め込み、あたかも『関西電力のサーヴァント(召使い)』であるかのごとく、住民側の裁判を受ける権利を奪った不当な『裁判』に対し、満腔の怒りをもって、強く抗議します」とする抗議声明を出した。

政府の原発推進を後押し

 今回の判決の異常さは、福井地裁判決と比べてみれば明らかだ。地裁判決は、人命とコスト論とを同列に論じることは「法的に許されない」とし、「豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり、これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失である」として、国の裁量権に委ねることなく、原発の危険性を正面から判断した。

 高裁判決の前日7月3日、政府はエネルギー基本計画を4年ぶりに改定し、閣議決定した。世界の趨勢(すうせい)や国民世論に配慮して再生可能エネルギーを「主力電源化」すると明記する一方、原発を「ベースロード電源」と位置づけ、2030年度の発電割合を20〜22%に据え置いた。さすがに新増設までは盛り込めなかったものの、これは既存の原発を再稼働させることが前提となる数字だ。

 今回の判決は、安倍政権の原発再稼働政策に追随し、新たな「安全神話」に加担するものだ。判決は、「原発を廃止・禁止することは大いに可能」としながら、「もはや司法の役割を超えている」として立法府・行政府が判断すべきとした。自衛隊の憲法判断同様、司法の独立を自ら放棄する悪質な判決に批判の声をあげよう。再稼働反対行動を強め、各地の原発運転差し止め訴訟や避難者・在住者の損害賠償訴訟を支援し、命よりカネ優先の政府・電力会社への批判世論を大きく広げよう。

(注)入倉・三宅式

 北米の地震データを基に震源断層から地震の大きさを推定する予測式の一つ。この予測式を垂直に近い断層面を持つ活断層に適用すると、震源の大きさが過小になり、基準地震動も過小に評価される傾向があるとされる。

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