2018年08月03日 1537号

【未来への責任(254)大法院の判決「先送り」疑惑】

 2012年5月24日、日本の最高裁に当たる韓国大法院が新日鐵、三菱重工を被告とする強制連行訴訟で画期的な判決を出した。(1)日本の国家権力が関与した反人道的不法行為や植民地支配に直結した不法行為に因る損害賠償請求権が、請求権協定の適用対象に含まれていると見ることは難しい。従って、(2)原告らの損害賠償請求権は消滅していない。大法院はこう述べて、被害者の請求を棄却した下級審判決を破棄、差し戻した。

 1年後の2013年7月、ソウルと釜山(プサン)の高等法院は差し戻し審の判決を出したが、いずれも被害者原告の請求を認め、被告企業に賠償を命じた。これに対し、新日鐵、三菱重工は「国家間の合意を否定する不当な判決」だとして上告した。

 二つの訴訟が大法院に係属されてから5年が経過した。この間に、最終判決を心待ちにしていた新日鐵訴訟原告の呂運澤(ヨウンテク)さん、申千洙(シンチョンス)さんはそれを見ることなく鬼籍に入られた。無念であったろう。

 5・24大法院判決に沿って出された差し戻し審での下級審判決が、再度上告されたとしてもそれを覆す余地はほとんどないはずだ。それなのに何故、大法院は判決を出さないのか。被害者原告はむろんのこと、原告代理人、大韓弁護士協会も疑問に思ってきた。

 その背景が、明らかになってきた。今、「上告法院(大法院が処理する上告事件のうち、一部を分けて処理する裁判所)」を実現するために、梁承泰(ヤンスンテ)・前大法院長が、朴(パク)政権の意に沿うような判決を出したり、司法人事を行ったのではないか、との疑惑が浮上している。その調査の中で、政権内の「上告法院」反対派の影響力を削ぐために、大法院が「青瓦台(李丙h(イビョンギ)秘書室長)」に働きかけることにし、李室長が「日帝強制徴用被害者の損害賠償請求事件に対し、請求の破棄ないし差し戻し判決を期待しているものと予想」して「接触・説得」を試みようとしていたとの事実が暴露された。大法院は、李室長の最大関心事が「韓日友好関係復元」にあると踏み、韓国地検による産経新聞ソウル支局長名誉毀損起訴事件(2014年)とともに、強制連行訴訟を朴政権の意向に沿うように処理することによって「上告法院」実現への道を開こうとしていた。そして、実際に産経新聞事件は、日韓両政府が“満足”するかたちで決着した。そうであれば、強制連行訴訟も、破棄・差し戻し判決を出すことが難しい中で、大法院は判決を「先送り」し、政権に“恩を売った”のではないか。

 この司法行政権乱用疑惑の解明のため検察も動いている。強制連行事件の代理人弁護士に、「判決は意図的に遅らされたのか」「遅れている理由は何か」等を聴取している。いずれ真相は明らかにされるだろう。

 そして、上告された強制連行事件訴訟(3件)の判決は早晩出される。その時、被告企業に賠償を命じた判決が覆される可能性はまずない。強制連行企業は判断を問われる。今こそ、被害者救済を決断する時ではないか。

(強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワーク 矢野秀喜)

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