2018年08月10日 1538号

【杉田水脈は安倍「公認」/「LGBTは生産性がなく支援不要」/ヒトラーを思わせる反人権思想】

 自民党の杉田水脈(みお)・衆院議員が、性的少数者を念頭に「子供を作らない、つまり生産性がない」などと主張したことに、抗議の声が広がっている。杉田は数々の極右ヘイト発言で有名な人物だが、彼女を「素晴らしい」と絶賛し、自民党にスカウトしたのは安倍晋三首相である。杉田がまき散らす差別思想は、安倍自民党「公認」のものなのだ。

差別・偏見の見本市

 杉田は自民党所属の衆院議員。初当選は2012年。当時は日本維新の会から立候補していた。その後、次世代の党の結党に参加したが、2014年の選挙で落選。昨年の衆院選で自民党の公認を受け(比例中国ブロック)、返り咲き当選を果たした。

 問題となっているのは、「『LGBT』支援の度が過ぎる」と題した寄稿文だ(『新潮45』8月号)。杉田は「不妊治療に税金を使う」ことには少子化対策という大義名分があるが、「LGBTのカップル」の支援には理由がないと主張する。「彼ら彼女らは子供を作らない、つまり『生産性』がないのです。そこに税金を投入することが果たしていいのかどうか」

 事実誤認と差別・偏見のてんこ盛りというべき文章である。まず、日本の行政は性的少数者の存在を長らく意識してこなかった。予算がついた政策もごくわずか。杉田の言う「度が過ぎるLGBT支援」など存在しない。

 そして「生産性」だ。生産性とは本来「投入資源と得られる成果の比率」のことを指す。杉田は"子どもをつくらない=国益に寄与しない"という意味合いで、性的少数者に「生産性がない」との烙印(らくいん)を押した。人間を国益追求の道具としかみていない証拠である。

 「生産性のない者は支援不要」という杉田の論理に従えば、障がい者や高齢者、何らかの理由で働けない人びとへの社会保障も無駄金ということになる。国家にとって、税金の投入と同等以上のリターン(子どもをつくることや納税)を見込めないからだ。

 これはまさに「ナチスの思想」である。ヒトラー政権下のドイツは、総力戦体制づくりの一環として、戦争遂行や生産活動に寄与できないとみなした障がい者たちを組織的に抹殺する政策を実行した。「生きる価値」を国家が決める社会は究極的にこうなるという見本だ。

 ヒトラーばりの差別思想をまき散らす杉田に国会議員の資格はない。即刻、議員辞職すべきである。

大臣クラスが擁護

 ところが杉田は何一つ反省していない。それはそうだろう。彼女によれば、大臣クラスの先輩議員が「間違ったこと言ってないんだから胸張ってればいい」、あるいは「杉田さんはそのままでいいよ」などと励ましてくれたというのだから(7/22のツイート。現在は削除)。

 実際、自民党の二階俊博幹事長は「人それぞれ政治的立場、いろんな人生観、考えがある」と述べ、杉田の主張を問題視しない姿勢を示した。菅義偉官房長官も「政府の立場でコメントすることは控えたい」と、知らぬ顔を決め込んでいる。

 性的少数者を異常視する杉田の主張は「伝統的家族」に固執する自民党の本音だ。とはいえ、騒動を起こしたことへの注意ぐらいしてもよさそうなものだが、その気配もない。なぜか。答えは簡単。杉田は安倍首相の「お気に入り」だからである。

国政私物化の害悪

 世間的には無名の若手議員かもしれないが、杉田はネトウヨ業界の売れっ子である。「男女平等は、絶対に実現しえない反道徳の妄想です」と国会で公言したり、国連にまで出向いて「慰安婦バッシング」をくり広げたり、「レイプされる女性が悪い」と被害者を嘲笑したり、右翼オヤジが言いたくても言えない本音を代弁する存在として重宝されている。

 そんな「愛国女子」気取りの杉田を安倍首相は「素晴らしい」と絶賛。側近の萩生田光一(自民党幹事長代行)が口説き落として、自民党から出馬させた。週刊文春8月2日号によれば、安倍は「稲田朋美を見習え」と杉田を励ましてきたという。

 前防衛相の稲田朋美といえば、安倍の寵愛を一身に受け、一時は「将来の首相候補」と持ち上げられていた(彼女を政治家にスカウトしたのも安倍である)。おそらく杉田は、稲田と同じ道を歩みたいと願っているのだろう。

 人権否定の差別思想を公言することが、権力者に気に入られ出世の早道になる――そんな風潮を作り出した安倍晋三の罪は重い。杉田発言の背景には、安倍による国政私物化があるのである。

   *  *  *

 2年前、神奈川県相模原市の障がい者施設で、入所者19名が元職員に殺害される事件が発生した。男は「重度の障がい者は生きていてもしょうがない」「国の税金の無駄だ」とうそぶき、安倍首相なら自分の考えを理解してくれると思い込んでいた。

 安倍に関してはそのとおりだった。杉田のようなレイシストを擁護する安倍政権は、「国家の役に立たない者、利益を生み出さない者は要らない」という考えを実践している。おぞましい話だが、これが日本の現実だ。  (M)

LGBTとは

 レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(出生時に診断された性と自認する性の不一致)の頭文字をとった言葉。性的少数者の総称として行政やメディアで使われる。



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