2018年08月17日 1539号

【福島県民健康調査 増え続ける甲状腺がん 「検査縮小」論は最後のあがき】

 福島第一原発事故から7年5か月になろうとしている。被災地住民や避難者の放射能汚染による健康被害は深刻になっているが、安倍政権と原子力ムラはその事実をかたくなに認めず、なかったことにしようとしている。健康被害問題は、原発賠償訴訟や再稼働反対運動にとってもきわめて大きな意味を持つ。

明らかな異常多発

 6月18日、事故時に福島県に在住した18歳以下を対象とする福島県民健康調査の第31回検討委員会で、新たに甲状腺がんと確定した人が9人、疑いが3人となったと報告された。これで1〜3巡目の検査でがんまたはその疑いと診断された人は計198人(手術で良性と確認された1人を除く)。

 さらに7月10日の甲状腺検査評価部会では、これまで県が公表してきた集計から漏れていたがん患者が少なくとも11人いることが報告された。このデータを含めると、がんまたはその疑いは209人となり、手術を受けた患者は173人となった。

 検査が始まる以前、小児甲状腺がんは100万人に1〜2人とされていたことからすると、数十倍の異常多発だ。

 しかし、検討委は、多発を認めながらも、それは高性能の超音波機器を用いて一斉に検査したことにより普通なら判らなかったようながんまで見つけてしまうスクリーニング効果によるもので、今なお「放射線の影響とは考えにくい」と強弁し続けている。

 「スクリーニング効果」を認めても、それは1巡目に当てはまるだけだ。2巡目以降はほとんど見つからないはずだが、2巡目でも71人のがん(または疑い)が見つかっており、その大部分が2年間でがんを発症したか、がんが急速に成長したことを意味している。

この局面で「検査縮小」論

 ところが、放射線の影響を疑い検査を継続すべき時に、「検査縮小」を求める声≠ェ大きくなっているという。どういう理屈なのか。

 その代表格が高野徹・大阪大講師だ。高野が主張する「甲状腺がん芽細胞仮説」は、「未成年の甲状腺がんの進行は速いので、立派な大きさで発見されてしまう。しかし、がんの進行は大人になると止まってしまう」「(だから)手術の必要はない」「検査は中止すべきだ」というものだ。

 その高野が、昨年10月から新たに検討委員となり、甲状腺検査評価部会にも加わった。

 では、実際に行われた手術は必要のないものだったのか。甲状腺がんを多数執刀している鈴木眞一・福島医大教授は、手術例の78%以上がリンパ節に転移し、44%以上が甲状腺組織外に浸潤しており、「過剰診断」には当たらないと述べている。

 検査中止を唱える高野委員の言説に対しては、「311甲状腺がん家族の会」、「放射線被ばくを学習する会」(賛同61団体、240個人)が批判する公開質問状を出しているが、いまだ回答はない。

放射線の影響は明らか

 放射線影響否定論の破たんは明らかだ。

 そもそも日本癌治療学会の『甲状腺腫瘍(しゅよう)診療ガイドライン』の「甲状腺癌の危険因子にはどのようなものが存在するか?」との設問に対する答えは、「放射線被曝(被曝時年齢19歳以下、大量)は明らかな危険因子である」と「一部の甲状腺癌には遺伝が関係する」というものだ。しかも、わざわざ「これ以外に科学的に立証された危険因子は、今のところ存在しない」と断ってある。

 自然発生とされる甲状腺がんであっても、一番の要因は放射線被ばくを疑わなければならない。まして原発事故で大量の放射性物質が大気中にばらまかれた以上、まずは放射線の影響を疑うのが当然だ。

 昨年11月30日に開催された第8回甲状腺検査評価部会では、地域別のがん発見率が示され、放射線の影響はいっそう明らかになった。

 県民健康調査は、避難区域など高線量地域(13市町村)、中通りの中線量地域(12市町村)、その他の低線量地域(34市町村)にグループ分けして実施されている。示された資料(表)によると、2巡目の発見数を基に算出した10万人当たり(年間)の発見率は、避難区域21・4人、中通り13・4人、浜通り(避難区域以外)9・9人、会津地方7・7人となっており、放射線量が高い地域ほど発見率も高くなっている。「放射線影響なし」の予断を持たずに見れば、放射線量の影響は誰の目にも明らかだ。

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 「検査縮小」論は、年を追って増え続ける甲状腺がん患者を前に追い詰められ原発事故の影響をなかったことにしたい勢力の最後のあがきだ。世論の力で封じ込め、成人も含めて他の様々な疾患の調査や健診へと拡大させなければならない。

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