2018年09月21日 1543号

【「ソウルの市民民主主義を学ぶ」 市民・議員の視察報告会 “市民が主人公”の自覚と実践】

 ソウル市の政策とそれを動かす市民自治の実践を学び、日本の政治と地域を変える力にしようと、発足したばかりの「希望連帯」(白石孝代表)が呼びかけた現地視察の報告会が8月28日、都内で開かれた。

 視察は7月30日〜8月2日行われ、市民・自治体議員・国会議員ら17人が参加した。その一人、福島みずほ参院議員は「出かける福祉、直接民主主義の試み、非正規職員の正規化、最低賃金アップなどを聞き、新自由主義が横行し雇用が壊れている今の日本の中にあっても政治・社会を変えられると思った」と感想を語る。自治体議員らが9つのテーマ毎にソウル市での交流について報告。特徴は、先進的な施策を生み出す論争・点検を地域から市民が緻密に連携して作り出していることだ。

 ソウル市の労働政策。労働政策は中央政府がやるものとの考えを脱し、担当部署・条例を作り、労働組合や職員が主体的に関与できる場を提供し、地域密着型の労働福祉センターを9か所に配置した。清掃や警備部門などの非正規労働者1万人を正規化し、最賃の127%に当たる生活賃金を設定して最賃アップを引っ張った。

 トップダウン方式を変えたまちづくり。まちづくりの主体である市民の参加を促すため、市民3人が集まれば補助金を交付する「3人条例」を導入し、これまで8割が団体に支給されていた補助金の流れを一般市民が受け取れるように変えた。縦割り行政や、行政が計画を立ててから市民参加を促す形式主義、単年度会計の持つ不継続性の克服を意識的に進めている。

普遍主義による社会福祉

 普遍主義を根本に据えた社会福祉。日本では多くの施策で所得制限や所得別負担率を設ける選別主義がとられているが、ソウル市は権利として100%誰もが給付を受けられる普遍主義をベースに、児童手当支給・保育サービス・学校給食無償化などを進めた。財源としては付加価値税や所得税の増税が検討されており、国債の発行は求めない姿勢だ。韓国市民の根強い財閥批判に配慮して、一部の高額所得者を対象から外す“準普遍主義”の施策も興味深い。

 貧困層が多く暮らすソウル市南部「冠岳区(クァナック)住民連帯」。“分かち合い”や子どもたちの居場所設置、住民自治を実践するための講座、居住の権利を保護するセンター活動を展開する。「冠岳(クァナッ)共同行動」は、市民基盤委員会、市民政治委員会、市民協治委員会を基本に、16の市民団体によって行政や政治家に任せない市民自らによる社会変革をめざす。

 申請主義を克服するチャットン事業(出前型福祉サービス)。申請主義を口実とした福祉、権利の切り捨てに対抗する地域の住民主導のネットワークづくりだ。福祉職員を倍増し、担当公務員と看護師がペアで家庭訪問している。

 ムン・ジェイン大統領を誕生させたのはろうそく革命に違いないが、何百万もの市民が結集する背景には、地域に根ざした、市民が主人公となった民主主義の自覚と実践があることに注目したい。

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