2018年09月21日 1543号

【安倍の衰え示す総裁選/政策論争から逃げまくり/圧勝で隠したい世論の「安倍離れ」】

 「安倍晋三対石破茂なんて、目クソと鼻クソの争いじゃないか。そんなの関心ないね」。自民党の総裁選挙に対し、このような反応の人もいるだろう。しかし、安倍陣営による執拗な「石破叩き」や政策論争の回避を見過ごしてはならない。それは安倍政権の衰えを示している。

異様な「石破叩き」

 各種メディアの予測によると、連続3選を目指す安倍首相の優位は揺るがない。すでに国会議員票の8割超を固め、弱点とみられていた党員票でも6割を超す票数を獲得する見通しだという。これだけ盤石の体制ならば、相手を受けて立つ横綱相撲を演じてもよさそうなものだ。

 しかし、安倍陣営は異様なまでに殺気立っている。安倍は周囲に「石破本人と石破についた議員は徹底して干し上げる」と語ったという。重要ポストを与えず、国政選挙でも冷遇する(第1次公認から外す、応援に入らない等)というのだ。

 さらには御用メディアや安倍応援団を総動員し、「石破叩き」を連日くり広げている。いわく、「形を変えた護憲派だ」「拉致問題の解決を妨害している」「理屈っぽい石破はトランプ米大統領と合わない」「デフレが再来し、雇用がなくなる」「立候補を辞退すべきだ」等々。

 連中が特にかみついているのが、石破が掲げた「正直、公正」というキャッチフレーズだ。これがなんと「安倍首相に対する個人攻撃」にあたるというのだ。石破陣営が安倍へのあてこすりを意図したのは間違いないが、それが安倍応援団をこれほど苛立たせるとは…。彼らも安倍が嘘つきで身びいきなことは認めているのだろう。

 朝日新聞の報道(7/27)によると、安倍官邸は政府の情報機関である内閣情報調査室を使って、石破の言動を収集・監視しているという(非公式な場面でも)。これはもう独裁国家の所業である。権力の私物化ここに極まれりと言うほかない。

地震さえも利用

 手下に「石破叩き」を競わせる一方、安倍本人は正面対決を避ける戦術に終始している。選挙期間中に外交日程を入れ、街頭演説や公開討論会の回数を減らした。「石破さんはそれしかアピールする道がない。わざわざ相手の土俵に乗る必要はない」(官邸幹部)というわけだ。

 安倍翼賛体制を強める自民党は、北海道で大地震が発生しても、石破の「総裁選延期提案」を却下。7日〜9日に予定されていた討論会や街頭演説は中止または延期になった。安倍陣営は「不謹慎だが、選挙戦にはプラスになった」(9/7産経)とほくそ笑んでいるという。

 メディア対策もえげつない。自民党は総裁選について「公正・公平な報道」を求める文書を新聞・通信各社に送り付けた。党総裁選管理委員会名で出された文書は、候補者のインタビューや取材記事、写真の掲載に関して、内容や掲載面積など「必ず各候補者を平等・公平に」扱うように注文している。

 メディアへの露出に活路を見出したい石破の思惑を潰す意図が丸見えだ。それにしても、公職選挙法の対象外である政党の代表選びで、何を根拠に「公平・公正」な報道を求めるというのか。報道への不当介入、圧力以外の何ものでもない。

世論の離反に焦り

 安倍はなぜ政策論争から逃げるのか。自民党としての改憲案を秋の臨時国会に提出したいのであれば、総裁選を疑似合意形成の場に使う手があった。9条2項の削除を主張する石破との対比で、自分の改憲案(自衛隊合憲条項の追加)のほうが現実的と印象づけることもできたはずだ。

 だが、安倍は踏み込んだ議論を避けた。その理由をうかがい知ることができるデータがある。JNNの最新世論調査(9/1〜9/2実施)結果だ。「自民党総裁にどちらがふさわしいか」の問いに対し、安倍と答えた人は41%、石破と答えた人は40%で拮抗している。「支持政党なし」層に限ると、石破が46%で安倍29%を大きく上回った(ちなみに自民支持層は安倍支持が72%で、石破21%を圧倒)。

 政策面はどうか。臨時国会に自民党の改憲案を提出するという安倍の考えに「賛成」と答えた人は26%にとどまり、「反対」53%に大差をつけられた。憲法に自衛隊の存在を明記することについても、「支持する」39%より「支持しない」47%が多い。

 頼みのアベノミクスも神通力を失った。実に84%の人が「景気回復の実感はない」と回答。アベノミクスの継続には「反対」が42%で、「賛成」34%を上回った。

 こんな状態で「一般人にも届くような討論会」(首相周辺)を行えば、石破が相手でも劣勢は必至だ。よって論戦のリスクは冒せない。世論の「安倍離れ」を食い止めるためには、身内を脅した結果でしかなくても、「圧勝」を見せつける必要があった。人びとに「安倍しかない」と思い込ませるために…。

   *  *  *

 「現職がいるのに総裁選に出るというのは、現職に辞めろと迫るのと同じだ」。御用記者で有名な産経新聞の阿比留瑠比(あびるるい)によると、安倍は周囲にこう語ったという。

 対立候補の存在自体が気に食わない。自分に従わない者は敵とみなして徹底的に叩き潰す――安倍の辞書に「言論の自由」はないということだ。こんな男がのさばり続ければ、日本の民主主義は本当に死ぬ。この国を暗黒のアベ王国にしてはならない。   (M)



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