2018年10月05日 1545号

【未来への責任258 元徴用工、無念の死を今一度受け止め】

 呂運澤(ヨウンテク)さんと申千洙(シンチョンス)さんが新日鐵住金(当時は新日鉄)と日本政府を相手に大阪地裁に未払賃金の返還、謝罪と補償を求めて裁判を起こしたのは21年前の1997年12月。ソウル在住の2人は、日鉄(現新日鐵住金)大阪工場に強制連行されて工場が空襲で破壊されたあとは清津(チョンジン)製鉄所(現在の朝鮮民主主義人民共和国北部)に再連行され、そこにソ連軍が侵攻して日本人が早々と引き上げる中で現地に放置された元徴用工だった。

 2人の訴えは、日本では2003年10月に最高裁が請求を棄却し司法解決の道が閉ざされてしまった。しかしその後韓国内で日鉄に強制連行された被害者の調査が進み約180名の生存者・遺族がいることが判明。被害者を代表する形で5名が2005年2月にソウル地方法院に提訴した。

 来日して直接会社に訴える体力も衰えた高齢の2人は、2012年会社へ直訴の手紙を出す。「若い時、日本製鉄で仕事した経験は、それが苦しいものであれ、楽しいものであれ、私の人生の一部であり、人生に大きな影響を及ぼしました。ですから、私はその時期、汗を流しながら一所懸命に仕事をした代価を必ず認めてほしいです。日本製鉄は、法とか外交協定のような政治的な決定の後ろに隠れずに、堂々と前に出て、この問題について、責任をとって下さい」(呂さん)「私が日本製鉄と日本政府に要求しているのは、戦争中に血と汗で儲けた労働の代価を返してほしいということです。私は道義的な同情を受けたいわけではありません。当然受けとるべき労働の代価を要求しているのです。戦争が終わってすでに65年になりました。もう90歳になるから、あとどれぐらい生きるかわかりません。真の韓日関係の発展のため、日本製鉄会社が何をすべきか真剣に悩んで、被害者との対話に出るべき時だと考えます」(申さん)

 2人の悲痛な叫びに応えるかのようにその年の5月、韓国の大法院は植民地支配下での過酷な強制労働についての損害賠償請求権は消滅していないと判示し、翌年7月差し戻し審のソウル高裁は一人あたり1億ウォンの支払いを会社に命じた。そして今、いよいよ、大法院の最終的判断が示されるまでになったが、呂さんはソウル高裁判決直後の2013年12月、申さんは翌年2014年10月に相次いで亡くなられた。

 韓国では強制連行被害者を記憶するための「元徴用工像」が昨年8月にソウル市と仁川(インチョン)市、12月には済州(チェジュ)島にも建てられ、現在も各地で建立運動が進められている。かつて、大法院判決に対し当時の日本のマスコミや世論は「ちゃぶ台返し」だ、過去の問題を蒸し返す常識外れの判決だと批判した。「徴用工像」建立に対してもこぞって新たな日韓の「火種」だという。

 真の「過去清算」とは植民地支配の暴力を受けた当事者の尊厳回復が実現されることだ。2人の元徴用工の無念の死をもう一度受け止め、彼らが伝えたかった歴史の真実を私たちがしっかり次世代に伝えていくことの大切さを心に銘じたい。

(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会 中田光信)

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