2018年10月26日 1548号

【安倍政権の生存権破壊 「全世代型」の名で社会保障削減 諦め誘導する政府・メディア】

高齢化「国難」論の攻撃

 10月2日内閣改造後、安倍首相は「最大の課題は国難とも呼ぶべき少子高齢化問題」と述べた。またも「国難」である。だが、この問題はいま浮上したのではなく、20数年前から指摘されているものだ。その間に自民党政権は、少子高齢化に有効な対策となる待機児童問題や不安定雇用解消を放置したままだった。問題をいっそう深刻にしたのは政府・自民党である。

 安倍首相は続けて、「すべての世代が安心できる社会保障へ3年かけて改革を行う。(これは)安倍内閣の最大のチャレンジだ」と強調した。そのために、「全世代型社会保障改革」の担当大臣を新設し、側近の3閣僚を実行役に据えた。「全世代型社会保障改革」という名称で新しさを装っているが、その内実は社会保障費の削減を前提に世代間の予算配分を変えることでしかない。これまでに実行してきた社会保障制度解体攻撃をさらに強めるというのだ。

 現に、10月から生活保護費が受給世帯の7割で削減される制度改悪がスタートした。この最低限度の生活水準切り下げは受給者を直撃するだけでなく、様々な社会保障給付や課税等の基準を悪化させ、低所得層をはじめ多くの市民の生活を低下させる。

 安倍政権の意図は何か。自民党が軍事費を対GDP比2%に引き上げるべきと提言したことを重ねれば、軍事大国化のために社会保障費を削ろうとする狙いが明らかになる。「全世代型社会保障改革」の名の切り捨て攻撃は、軍拡予算確保と一体なのだ。

社会保障充実こそ願い

 では、市民は政府に何を求めているのだろうか。8月24日に発表された内閣府「国民生活に関する世論調査」での「政府に対する要望」を見ると、「医療・年金等の社会保障の整備」が64・6%(複数回答)で1位。日本経済新聞世論調査(7/20〜7/22)でも、自民党新総裁に期待する政策では「社会保障の充実」がトップで、「憲法改正」が最下位だった。過去の世論調査も同様で、社会保障は常に上位の要望項目だ。決して安倍政権が優先する軍事費増や自衛隊の憲法明記などではない。



 国立社会保障・人口問題研究所「生活と支え合いに関する調査」(8/10、上図)では、社会保障制度について「所得、資産や支払っている保険料の額によらず、だれもが必要に応じて利用できるべきか」とする問いに、そう思う・ややそう思うが計84・2%であった。この数字は、社会保障の本来の意味を市民はしっかり捉えていることを示す。

 社会保障への期待と要望が多数を占める各調査結果は、実際にはそれが不十分であることを浮き彫りにする。そうした不安を逆手にとって安倍政権は消費税増税をもくろむ。社会保障拡充のためなら増税も仕方がない≠ニ諦めさせようしているのだ。

 「社会保障のため」のかけ声で消費税が8%に引き上げられた時、初年度に増えた税収5兆円のうち社会保障に使われたのは5千億円。増税分の1割だけで、多くは赤字国債の返還に回された。

見えなくされる問題点

 「すべての世代が安心できる社会保障」と唱える安倍政権が行ってきたのは、生活の不安を高めることだった。今さらにそれが加速している。生活保護費削減はその象徴であり、医療費、社会保険料、介護保険料など負担増は数えきれない。ここに消費税増税が重なると、市民生活はいっそう破壊され、低迷し続ける個人消費など経済がますます悪化する。これは少子高齢化問題を深刻にする。

 社会保障の重要性が理解されているにもかかわらず、安倍政権の社会保障削減攻撃に世論の批判が必ずしも高まっていないのはなぜか。そこには、政府による巧妙な世論誘導が影響している。

 たとえば、2025年度の社会保障給付額がどうなるかについて過去に発表された政府推計を見ると、1994年の時には「300兆円超」、2000年では「200兆円超」、2012年「150兆円」だった。そして、直近の2018年5月では「140兆円」である(7/6日経)。これほどの差がある「推計」など信頼できるわけがない。要は、「過大に見積もった推計を基に増税の議論を進める」(同)との意図で作られた数字なのだ。

社会崩壊≠フ危機あおる

 政府が少子高齢化問題を語る時、「現役世代人口÷高齢者人口」の数字を用い、現在の2・3が50年後には1・3になる、と危機をあおる。だが、これはむしろ問題を見えなくする。「総人口÷労働力人口」で表される労働力人口扶養比率≠ナ判断した方が実態に近い。この比率は、2010年で1・88だったが、2050年で2・05という試算(醍醐聰『消費増税の大罪』2012年)がある。40年間で1人当たりの扶養負担は1・1倍程度にしかならない。社会崩壊≠フ危機を宣伝する政府・メディアの数字とは大きく異なる。

 このように統計や数字を都合のいいように使うことで真実が隠されている。「全世代型」の名称には子育て世代の関心を買いつつ、雇用年齢の引き上げで年金支給を70歳まで遅らせる狙いもある。ウソとごまかしを見抜き、社会保障削減NOの声を強めよう。
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