2018年11月02日 1549号

【原発事故避難者のいのちと生活をまもる京都公聴会/来年3月住宅支援打ち切りに国際人権基準で闘う】

 「原発事故避難者を路頭に迷わせるな」と、10月7日京都で公聴会が開かれた。福島県が区域外避難者に対する住宅支援を打ち切ると表明している来年3月。あと半年足らずで住居を奪われる避難者の不安や怒りの声が相次いだ。公聴会では、国際人権法の観点から避難者に対する住宅保障は国や自治体が果たすべき最低限の義務であることを明らかにし、避難者ひとりひとりの事情に応じた具体的な支援策を提示させていくことが確認された。

政府・自治体に義務有り

 今回の公聴会のテーマは、国際人権基準から原発事故避難者の居住・生活の権利とそれを保障する国・自治体の義務を確認することだ。

 国際人権法について大阪大学大学院の研究員徳永恵美香さんが講演。「人権とは、誰にでも、いつでも、どこでも、同じ人間としての尊厳が守られる権利であり、それは原発事故避難者であっても避難先であっても国が保障すべきものである」との基本原則を確認することから始まった。

 国連総会で1996年採択された国際人権規約に基づけば「被災国は原子力災害にともなう放射性物質による環境損害を含め、環境災害を防止し、軽減するための枠組みを採択する義務」(社会権規約12条)があり、「被災者の移動及び居住選択の自由についての権利を確保するために実効的な積極的措置を取る義務」(自由権規約12条)がある。

 こうした国際人権・人道法を反映する避難者に対する最も重要な基本文書「国内強制移動に関する指導原則」(98年、国連人権委員会)が紹介された。原則15には「自らの生命、安全、自由もしくは健康が危険にさらされるおそれのあるあらゆる場所への強制送還または当該場所における再定住から保護される権利」が定められている。区域外避難者が「勝手に避難した」と非難されるいわれも、支援を打ち切られる理由もない。国・自治体には保護義務がある。

 日本政府は、国連から基本的な義務を怠っていると再三勧告を受けている。13年グローバー勧告をはじめ、13年社会権規約委員会、14年自由権規約委員会、16年女性差別撤廃委員会。17年には国連人権理事会での日本政府報告書審査で、区域外避難者への支援継続(オーストリア)、指導原則の適用(ポルトガル)、年間1_シーベルトの回復や支援継続で健康に対する権利尊重(ドイツ)などの勧告が出された。

 徳永さんは「国連で問題解決することはないが、これらの報告をどう使っていくのかが課題だ」と締めくくった。

住宅追い出しに対抗

 日本政府は今年3月、勧告受け入れを表明したものの「指導原則の趣旨は尊重している」などと言い訳している。ところが山形県米沢市内の雇用促進住宅に入居した区域外避難者8世帯に対し「住宅明け渡し、延滞料を含めた家賃支払い」を求める訴訟が起こされた。国や福島県が原告ではないが、17年3月みなし仮設住宅提供打ち切り以後「不法占拠」が根拠とされている以上、責任は福島県にある。

 被告とされた武田徹さんは「巨大な相手と闘うには」と題して自らの闘いの足取りを語った。福島市から米沢市に避難した武田さんは、行政交渉をするために自治会や「避難者の会」を結成。今は「福島原発被災者フォーラム山形・福島」の代表だ。「すべての被災者に補償をさせるには健康手帳を交付させることが必要だ。個人のせいにさせてはならない」と述べた。

 避難の協同センター世話人で住宅裁判を準備する会の熊本美弥子さんは首都圏の避難者の現状を報告した。その中で、国家公務員宿舎の継続提供は可能であることを東京財務事務所長名が福島県知事に出した「国有財産使用許可書」を示して明らかにした。使用期間の延長手続きが条文に明記されているのだ。

 福島県は延長申請するどころか、避難者に「退去届」の用紙を送りつけてきた。熊本さんは住宅確保のために「一時使用許可願」を出し、拒否されれば裁判を起こす準備を始めている。避難の協同センターは10月24日、政府・福島県交渉を構え、避難者の実態を突きつける。

 避難者と支援者のネットワーク「うつくしま☆ふくしまin京都」主催の公聴会は12年以来7回目を迎える。その都度、避難者の要求を集め、行政交渉を繰り返してきた。

人権が守られるまで

 公聴会は、国や自治体が、関係者や学識者から意見を聞き、法制定や施策に反映させるために実施される。だが行政が公聴会を開かない中で、市民が場を作り、議員や行政関係者の出席を求めるなど働きかけてきた。会場には本庄たかお京都府議が出席、国会議員からメッセージが届いた。

 京都の避難者もそれぞれの事情を語った。住居を変わることは生活を変えること。泣く泣く職場まで変える決断をした避難者もいた。「住宅は命に直結する」のだ。

 会場はほぼ満席。主催者の奥森祥陽さんは「来年3月は、避難者ではなく行政が解答を出すべき期限だ。一人も路頭に迷わせないために、どの公営住宅を提供するのかを示させる」と当面の方針を示した。「公聴会も人権が守られるまで続ける」と決意を語った。

 原発賠償京都訴訟の控訴審が12月14日、大阪高裁ではじまる。司法は、国際基準に基づき避難者の当然の権利を保護できるかが問われている。



 
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