2018年11月09日 1550号

【どくしょ室/朝鮮半島 未来を読む 文在寅・金正恩・トランプ 非核化実現へ/金光男(キムクァンナム)著 聞き手 川瀬俊治 東方出版 本体1500円+税/「非核・平和」の流れは止められない】

 「非核・平和」の時代が朝鮮半島に訪れようとしている。南北首脳は4・27板門店(パンムンジョム)会談で「朝鮮半島にもはや戦争はない」と宣言。朝鮮半島の完全非核化が約束された6・12米朝首脳会談では「新たな米朝関係の確立」が言明された。

 ところが、日本や米国のメディアの評価は否定的なものが多い。「具体性に乏しい」「北朝鮮は常に合意を破ってきた。信用できない」と言うのである。

 本書は、在日コリアン社会の大衆運動に長年身を置いてきた著者が、編集者の質問に答えるかたちで、朝鮮半島情勢の分析と展望を語ったものである。タイトルどおり「未来を読む」一冊となっている。

 本書の特徴は、「朝鮮半島の冷戦体制崩壊という地殻変動は韓国の民主化運動を抜きに考えられない」という視点を明快に打ち出していることにある。韓国市民は、平和的な方法かつ憲法秩序に従って、腐敗政権を退陣に追いやった。いわゆるキャンドル市民革命である。市民が民主主義の力を発揮しなければ、対北強硬政策の朴槿恵(パククネ)政権はそのまま存続していただろう。「私の全てをかけて朝鮮半島での戦争を阻止する」ことを公約に掲げた文在寅(ムンジェイン)大統領が誕生することもなかったのだ。

 では、米朝非核化交渉の現局面をどうみるか。米国が既存の核兵器とミサイルの迅速な破棄を求めているのに対し、朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)は核施設の閉鎖など「未来の核」に交渉の重点を置き、相応する「平和体制の保障」を求めている。米国にとっての「入口」が朝鮮にとっては「出口」なのだ。このように、解決すべき課題は多く、「薄氷を渡るような交渉になることも否定できない」と著者は言う。

 それでも著者は、朝鮮指導部の変化を分析し、彼らは「後戻りできない非核化の決断をした」とみる。昨年4月の朝鮮労働党中央委員会は「核・経済併進路線の勝利」を宣言した。勝利とは「その路線はもう終わった」との路線転換を意味する。

 新たな目標として掲げたのが「全党、全国が社会主義経済建設に総力を集中する」ことであり、「人民経済を改善」することであった。もし、米朝首脳会談での合意が実行されなければ、こうした「経済発展戦略」は水泡に帰す。金正恩(キムジョンウン)国務委員長は政治的に困難な局面に追い込まれる。だから後戻りはできないのだ。

 最後に著者は、日本に対し、朝鮮との国交正常化を進め、朝鮮半島の平和プロセスに積極参加すべきだと訴える。日本が朝鮮半島を植民地支配していた歴史を踏まえれば、どの国よりも積極的になるべきだと。

 「非核・平和」の朝鮮半島が実現すれば、軍拡路線は根拠を失い、真の平和国家・日本の構築に大きく寄与する。著者のよびかけに応えていきたい。 (Y)
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