2018年11月30日 1553号

【徴用工判決と安倍のウソ(上)/問われているのは「植民地支配責任」/被害者の人権救済は未解決】

 「解決済みの問題を蒸し返すのか」「約束を破る幼稚な国とは付き合えない」――強制動員被害者への損害賠償を新日鉄住金に命じた韓国大法院(最高裁)の判決以来、日本国内では感情的な韓国批判が渦巻いている。しかし、日本政府やマスメディアが自明の前提とする「法的に決着済み」論は本当に正しいのか。2号連続で検証したい。

協定の対象外と判断

 韓国の元徴用工4人が戦時中の強制労働で受けた被害の損害賠償を求めていた裁判で、韓国の大法院は10月30日、被告・新日鉄住金(旧日本製鉄)の上告を棄却した。これにより、原告1人あたり1億ウォン(約1千万円)の賠償を命じた2013年の高裁判決が確定した。

 日本政府は即座に猛反発した。安倍晋三首相は「本件は1965年の日韓請求権協定によって、完全かつ最終的に解決している」(10/30衆院本会議)と断言。「判決は国際法に照らしてあり得ない判断だ。日本政府として毅然と対応していく」と言い放った。

 安倍の言い分を日本のメディアは無批判にたれ流し、感情的な韓国批判を焚きつけている。だが、徴用工問題=朝鮮人戦時強制動員の問題は日韓請求権協定で「完全決着」などしていない。大法院判決が結論づけたように、被害者個人の損害賠償請求権は消えていないのである。

 判決は、原告が求めているのは日本の植民地支配と侵略戦争の遂行に直結した日本企業の反人道的行為によって生じた被害の慰謝料だと認定。この慰謝料の請求権は日韓請求権協定で放棄されていないとした。理由はこうである。「請求権協定の交渉過程で日本政府は植民地支配の不法性を認めず、強制動員被害の法的賠償を徹底的に否認した。このような状況で、強制動員の慰謝料請求権が請求権協定の適用対象に含まれたとみるのは難しい」

 意外に思われた方は、これを機会に日韓戦後史を学びなおすことをお勧めする。14年・7次にわたる日韓国交正常化交渉において、日本政府は植民地支配の不法性を一切認めなかった。韓国併合は合法であり、賠償問題が生じる余地はないというのが日本側の一貫した主張だった。大法院判決の事実認定は正しい。

帝国主義の論理を否定

 では、日本政府が韓国政府に供与した無償3億ドル・有償2億ドルは何だったのか。あくまでも「経済協力」という位置づけだ。当時の椎名悦三郎外相は「経済協力は賠償の意味を持っているのだと解釈する人がいるようであるが、法律上は何ら関係ない」(1965年11月参院本会議)と述べている。

 椎名は続けてこうも語った。英仏などは植民地を解放した際、新たな独立国の誕生を祝い、支援の意味で経済協力をした。それと同じだと。確かに、欧米の帝国主義国は植民地支配の謝罪や賠償はしていない。今風の表現を使えば、それがグローバル・スタンダードだというわけだ。

 しかし近年、植民地支配の下での残虐行為について、被害者が旧宗主国に補償を求める訴訟が頻発している。インドネシアで発生したラワグデ村事件(オランダ軍による村民虐殺事件。独立運動への弾圧だった)では、被害者遺族がオランダ政府を訴え、2011年に原告勝訴の判決が出ている(11/2東京新聞)。

 今回の韓国大法院判決は、植民地支配の責任を問い直す声が世界的に噴出する中で示された画期的な司法判断であった。植民地支配の責任に頬かむりする帝国主義国の論理に、被害者の人権救済を最優先する観点からNOを突きつけたのである。かつての植民地帝国が衝撃を受けたことは想像に難くない。河野太郎外相が「国際秩序への挑戦だ」と判決を罵っているのは、帝国主義国の閣僚として正直な反応といえる。

個人請求権は消滅せず

 冒頭で紹介したように、安倍首相は個人の請求権が消滅したかのような答弁をしたが、これは従来の政府見解に反している。たとえば1991年8月、当時の柳井俊二・外務省条約局長は日韓請求権協定第2条などの規定について、「両国が国家として有している外交保護権を相互に放棄したことを確認するものであって、個人の財産・請求権を消滅させるものではない」と明言している。

 国家間の条約・協定によって個人の請求権を奪うことはできない。このことを日本政府は日韓交渉の当時から十分認識していた。だから請求権協定の発効に合わせて、韓国人の対日債権や請求権を消滅させる内容の国内法(いわゆる法律144号)を制定・施行したのである。何と悪質な連中であろうか。

 徴用工問題の本質は人権問題だ。原告たちは国際法違反の強制労働を強いられ、重大な人権侵害を被った。大法院判決を貫く「重大な人権侵害に起因する個人の損害賠償請求権を国家が一方的に消滅させることはできない」との考え方は、国際人権法の進展に沿うものである。「国際法に照らしてあり得ない」のは、人権回復の要求を「たかり行為」よばわりしている安倍政権のほうなのだ。  (M)



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