2018年12月14日 1555号

【水道民営化法案にNO 命の源$を売り物にするな】

 入管法改定案の影で、ろくに審議もされずに強行されてしまった重要法案がある。現在は主に地方自治体が運営している水道事業の民営化を進める水道法改悪案だ。

水道運営権を民間に

 水道法改悪案国会提出の背景≠ニして政府が挙げるのが全国で進む水道施設老朽化だ。全国の水道管の総延長約67万キロメートルのうち、地球2周半に相当する約10万キロメートルがすでに耐用年数を超えている。所管の厚労省は、老朽化した水道管の取替費用として2009〜50年度に59兆円が必要と試算。財政悪化が進む自治体がこの費用を捻出できないことを水道民営化導入の口実とする。

 水道法改悪案は先の通常国会で、わずか7時間あまりの審議時間しかないまま衆院を通過、継続審議となっていた。今国会でもほとんど審議は行われていない。与党は、水道管などの施設を自治体が保有する現状は変えず、運営権のみを民間企業に委ねる「コンセッション方式」とするため、法改悪でも老朽化した水道管の取替に支障は出ないと主張。水道料金も民営化で効率化が進むことによって安くなるとバラ色の幻想を振りまく。

 しかし、水道民営化の急先鋒で自民党「水道事業促進議員連盟」会長も務める川崎二郎衆院議員は、水道民営化をめぐるテレビ討論番組(11/17BSーTBS)でも「民間活力で新たなチャレンジが生まれる」「電電公社を民営化、NTTにしたから携帯電話は生まれた」など珍妙な主張を繰り返し、民営化のメリットをまったく説明できなかった。民営化反対論者で「アクアスフィア・水教育研究所」の橋本淳司所長が「民営にすることで公営時代には不要だった役員報酬や株主配当など新たな費用が生まれる。水道運営会社の役員が不当な高額報酬を得ていた例もある」として水道料金高騰の可能性を具体的に指摘したのと対照的だ。

 与党は「民営化法案ではない」と否定するが、水道事業を運営と施設保有に分離し、運営を民間企業に委ねる点で民営化法案との批判は正しい。

民営化は弱体化

 国民共有の社会資本を民間企業に委ねたことで弱体化し、公共サービスが低下した例はいくらでもある。今年9月、関西地方を襲った台風21号により、民間企業「関西エアポート」が管理する関西空港は完全復旧に1か月近くを要した。必要な高潮対策や安全管理への支出を怠り、加えて社内で災害時の復旧責任も明確でなかったからだ。

 北海道では、自然災害で不通になった鉄道路線が、地元民の生活にとって必要であるにもかかわらず次々廃止に追い込まれている。廃線が提案されている路線の中には、1980年代まで札幌と釧路・根室方面を結んで生活必需品輸送を担っていた根室本線までが含まれている。記憶に新しい胆振(いぶり)東部地震(9月)での北海道大停電も、全発電量の4割を1発電所に集中させリスク分散をしなかった北海道電力の効率最優先経営が原因だ。費用度外視で電源を広範囲に分散できる非営利の運営体制であれば避けられた可能性が高い。

世界は再公有化の流れ

 世界は、80〜90年代に民営化が進んだ水道の再公有化の流れにある。南米ボリビアでは民営化の結果、運営企業が水道料金滞納世帯の水道を容赦なく止めた。貧困層を中心に水道が使えなくなり暴動に発展した。80年代に水道を民営化したパリでは、2大水メジャーであるスエズ社、ヴェオリア社が利益率を7%と政府に報告しながら、実際には15〜20%であることが明らかになった。再公有化を主導したパリ市のアン・ル・ストラ元副市長は「ごまかされた利益がどこに行ったのかは解明できなかった。民間企業をコントロールするのは不可能だ」と民営化を批判する。

 00〜15年の間だけで世界37か国、235件で水道を再公有化。水道運営契約を解除した場合の巨額の違約金請求など企業側の攻撃もあり、すぐには無理でも、条件が整えば再公有化に踏み切る国・地域はさらに増えるとみられる。

 これでも安倍政権は「運営企業へのチェック体制をきちんと制度化すれば問題ない」として、問題点が市民に知られる前に法案を強行成立させる構えだ。生き物にとって命の源である水を企業の利益に奉仕させることは許されない。

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