2018年12月14日 1555号

【「約束違反」は安倍のほうだ/戦争・植民地支配の責任に頬かむり/「解決済み」は世界で通用しない】

 「国と国の約束を破るなんて」「無法タカリ国家とは付き合えない」。元徴用工判決や日本軍「慰安婦」問題をめぐり、世論は韓国批判一色に染まっている。しかし「合意違反」というならば、安倍政権の姿勢こそ問われねばならない。侵略戦争や植民地支配の反省という戦後日本の対外公約を、この政権は思い切り無視しているからだ。

相次ぐ判決に本音が

 アジア・太平洋戦争中に広島と名古屋の軍需工場で働かされた韓国人の元徴用工や元女子勤労挺身隊員たちが、三菱重工業に損害賠償を求めた2件の訴訟で、韓国の大法院(最高裁)は11月29日、同社に賠償を命じる判決を言い渡した。新日鉄住金に賠償を命じた10月30日の判決に続く確定判決である。

 今回の判決も、原告の元徴用工らが求める損害賠償は、不法な植民地支配や侵略戦争の遂行と結びついた日本企業の反人道的不法行為への慰謝料であると認定。1965年の日韓請求権協定の対象には含まれず、原告の請求権は消滅していないとした。司法の流れは決まり、同様の裁判でも同じ論理で賠償判決が出ることは確実となった。

 日本政府は「断じて受け入れられない」(菅義偉官房長官)と猛反発。政府の強硬姿勢にマスメディアも追随し、韓国批判の大合唱をくり広げている。ここでは読売新聞の社説(11/30)に注目したい。「読売」は一連の判決を「日本による植民地支配は不法だったという一方的見解」にもとづくものだと批判。「不当な判決」と決めつけた。

 「読売」が代弁したのは支配層の本音である。連中は、朝鮮半島の植民地化は合法で日本は何も悪くないと思っている。謝罪や補償は論外という認識なのだ。安倍晋三首相が熟読を勧める御用新聞にふさわしい論調と言えよう。

 だが、このような居直りは日本国内でしか通用しない。戦後日本の立脚点というべき対外公約に反する態度として、厳しい批判にさらされるだろう。以下は歴史の勉強になるが、大事なことなのでお付き合い願いたい。

敗戦時の約束を無視

 1945年7月、米国、英国、中国の3か国首脳が日本に無条件降伏を勧告する宣言を発表した。それがポツダム宣言である(後にソ連も署名国となった)。ポツダム宣言の受諾が戦後日本の出発点である。9月2日調印の降伏文書にあるように、同宣言の各条項を誠実に履行することを日本は世界に約束した。

 ポツダム宣言の第8項は日本にカイロ宣言の履行を義務づけている。カイロ宣言(1943年11月)とは、米・英・中の首脳が対日戦後処理の原則を掲げた文書のことだ。日本の植民地支配下にあった朝鮮半島のことについては「朝鮮の人民の奴隷状態に留意し」「朝鮮を自由かつ独立のものたらしむる」と記されている。日本は朝鮮人民の自由を奪い、奴隷状態に置いた――この歴史認識を日本は受け入れたのだ。

 ところが韓国との国交正常化交渉において、日本政府は植民地支配を正当化する態度に終始した。たとえば、第3次会談における日本側首席代表の久保田貫一郎は「日本の統治は朝鮮にとって恩恵的であった」と強弁。カイロ宣言の「朝鮮の人民の奴隷状態」という表現は、「連合国が戦時の興奮状態にあったために用いられたものにすぎない」とまで言い放った。

 日本政府の姿勢は最後まで変わらなかった。1965年に結ばれた日韓基本条約及び付属協定には、植民地支配に対する謝罪や反省の言葉は一切ない。それどころか、日本が朝鮮半島を植民地にしていた歴史的事実さえ書かれていないのである。

 そのような協定が植民地支配に対する賠償を取り決めたものであるはずがない。被害者の救済は置き去りにされたままだ。徴用工裁判における韓国大法院の事実認定はまったく正しいのである。


天に唾(つば)吐く安倍首相

 安倍政権は一連の徴用工判決に反論するために、海外向けPR活動を強化する方針を打ち出した。しかし、「日韓請求権協定で解決済み」論が世界の賛同を得られるとは思えない。「一向に反省しない戦犯国」「被害者の救済に冷淡な国」という日本の良くないイメージが増幅されるのがオチであろう。

 こう言い切れるのは、日本軍「慰安婦」問題という先例があるからだ。国連の強制的失踪委員会は11月19日、「慰安婦」被害者への補償は十分ではないとして、日本政府が2015年の日韓合意で「最終的かつ不可逆的に解決した」としていることに遺憾の意を示した。8月に行われた国連人種差別撤廃委員会の対日審査会議の場でも、「(日本は)被害者の視点から出発した態度に欠ける」といった指摘が委員から相次いだ。

 重大な人権侵害に起因する被害者個人の損害賠償請求権を国家が一方的に消滅させることはできない――国際人権法の進展により、こうした考え方は「世界の常識」となっている。つまり、一連の徴用工判決を「国際法に照らしてありえない」とする安倍首相の認識は間違っている。

 歴史修正主義者丸出しの反論をすればするほど、日本がポツダム宣言の履行をサボタージュしてきた事実が浮かび上がる。「国際的信義にもとる」との韓国批判はブーメランのように安倍政権に返ってくるのである。

 政府とメディアが一体となって「日本は正しい。絶対勝つ」と吠えていても、決して鵜呑みにしてはならない。それが戦争から学んだ歴史の教訓というものだ。  (M)

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