2018年12月28日 1557号

【フランス 黄色いベスト運動が増税止める/金持ち優遇マクロンに市民はNO】

 フランスで、黄色いベスト(ジレ・ジョーヌ)を身につけた市民が全国約2千か所でデモを繰り広げている。燃料税の引き上げへの抗議をきっかけに始まった運動はマクロン大統領退陣を求めるものへと拡大。11月17日からの毎土曜行動、12月15日は第5次となる。マクロン政権が強行する「労働市場改革」や「税制改革」など新自由主義政策に対する市民の怒りは広範囲にわたり、運動の力は一部政策変更を実現し、マクロンを追いつめている。

弾圧許さず増税撤回

 闘いの始まりは、来年1月1日からの自動車燃料税引き上げに対する抗議だった。生活費の高騰にさらに追い打ちをかける増税。車が欠かせない地方の市民から闘いは起こった。11月17日、全国2千か所、約28万2千人が黄色いベストを身に付け道路を封鎖するなどの行動に出た。フランスでは車に黄色いベストを常備することが義務づけられている。タイヤ交換など路上作業の安全のためだ。この姿がSNSを通じて拡散した。

 マクロン政権はデモ隊が「暴徒化した」として装甲車や狙撃兵まで配置し、デモを抑え込もうとしたが不可能だった。12月1日の第3次行動は、パリで数十年ぶりの大規模な行動になった。8日の第4次行動のさらなる高揚を恐れたマクロンは5日、燃料税引き上げ凍結を発表した。

 だが、運動は収束しなかった。第4次行動は、当局発表でもパリで1万人、全国で13万6千人。実際の参加者はもっと多いといわれる。マクロンは10日、低所得者層向けの支援策を追加発表せざるを得なくなった。来年から最低賃金を月額100ユーロ(約1万3千円)引き上げ/残業代を非課税化/今年の年末賞与から非課税化/月収2千ユーロ(約26万円)以下の年金には福祉目的税引き上げを適用しない。

 黄色いベスト運動は燃料税の引き上げを撤回させ、一部ではあれ、新自由主義推進のマクロンに政策転換を余儀なくさせたのだ。

 「フランス人は金がない」。燃料税引き上げに対抗するスローガンだった。「金持ちのための大統領、マクロンやめろ」の声が大きくなった。黄色いベスト運動に対する国民の支持は7割にのぼり、マクロンの支持率は急落(図2)。


労働者いじめ、格差拡大

 「若きリーダー」ともてはやされた大統領就任当初は支持率62%。だが政策を実行するほど支持率は下がっていった。マクロンは何をしたのか。

 「労働市場改革」と称し、労働法を改悪し、解雇しやすくした。解雇要件の緩和、解雇不服申立期間2年を1年に短縮、解雇後の生活支援補償額の上限引き下げだ。労働市場改革と称する政策は、労働者の権利を切り縮めるものだった。賃金交渉も産別決定を個別企業優先へ変え、週35時間以上の労働を容認した。今年1月から実施されている。

 「税制改革」は露骨な大企業・金持ち優遇だった。法人税は33%から25%に減税。130万ユーロ(約1億7千万円)以上の資産保有者に課せられていた富裕税(ISF)を廃止。金融資産には課税せず、不動産への課税に限定した。また給与所得にかかる福祉目的税を7・5%から9・2%へ引き上げた。

 こうした労働者いじめ、金持ち優遇策が市民の怒りに火をつけた。「ガソリン、ディーゼル燃料に対する増税、石油消費抑制」はマクロンの選挙公約だった。大統領選の時、8割近い支持を得ていた地方の町を訪れたマクロンを待っていたのは非難のやじだった。「元銀行家のエリートを大統領に選んだのが間違いだった」(12/9朝日)

 黄色いベスト運動に参加する人びとは年齢層も職業も多様なだけに、要求も多様だ。議員に法制化を求める政策をネットなどで呼びかけまとめられたものは、42項目にのぼる。主なものを紹介する。

 最初に掲げられたのは「ホームレス0人」。失政の象徴がホームレスだといえる。税金・社会保険料の負担については「大企業(マクドナルドやグーグル、アマゾンなど)には重く、中小零細、個人事業者には軽く」「所得税の累進性を高める」など公正な再分配を求めている。また雇用の安定のために「有期雇用を減らし無期雇用へ転換」「外国人労働者に対する同等の権利保障」を訴える。マクロン政権の民営化や公務員削減に対しては、民営化により料金が高くなった「ガスと電気の再公営化」や「ローカル鉄道、郵便局、学校、幼稚園の閉鎖中止」を要求する。

マクロンやめろ大合唱

 黄色いベスト運動に呼応して高校生がマクロンの「教育改革」に抗議の声をあげた。3月に実施された「教育改革」は、高卒資格証明にあたるバカロレアをとれば無試験で入学できた大学に、選別制を導入した。高校生が3日間校舎を封鎖したことに対し、当局は700人以上を拘束した。警察官が弾圧する映像がネットで拡散し、7日、全国に抗議行動が広がった。パリでは数千人が参加した。

 長距離トラック運転手や地方公務員、農民のストも並行して取り組まれ、労働組合などの闘いと市民の闘いが混然となって進んでいる。マクロンは小手先の政策変更ではかわすことができないほどの怒りを買っている。

 *  *  *  *

 マクロンは、今年1月実施した富裕税撤廃の理由を「富裕層の資産が国外に去り、国力が弱まったためだ」と語り、その復活要求には答えていない。フランスで上位1%に該当する者の所得が全体の所得に占める割合は、94年に9・2%から14年には10・8%に増加した。18年度の税制変更で、さらに上位1%が突出して得をする構造になった(図1)。富裕税撤廃により優遇された額は100億ユーロ(1兆3千億円)を超えるとされる。



 格差を拡大する新自由主義政策に対する市民の怒りを押しとどめることはできない。

 安倍政権も、社会保障削減の一方で、貧困層への負担が大きい消費増税や法人減税など不公平税制をさらに拡大しようとしている。フランス市民と怒りを共有し、「安倍はやめろ」と声を強めよう。

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